未実現利益の消去とは?連結会計で「グループ内の利益」を消す手続き
未実現利益の消去とは、親会社と子会社の間で商品や土地を売買したときに付けた利益のうち、まだグループの外へ売れずに残っている分を、連結財務諸表を作るときに取り消す手続きのことです。連結会計の中では成果連結と呼ばれるグループの取引を消す作業の一部で、簿記2級から本格的に登場します。名前が長くて身構えてしまう論点ですが、やっていることは「身内どうしで売り買いしただけの利益は、まだ儲かっていないことにする」という一点に尽きます。
未実現利益とは — 身内に売っただけでは利益は実現していない
簿記では、商品を外部の得意先に売った時点で売上と利益を計上します。ところが親会社が子会社に売った場合、その商品はグループの外へは出ていません。連結という考え方では親会社と子会社をまとめて1つの会社とみなすので、この販売は自分の右のポケットから左のポケットへ商品を移しただけの行為になります。移しただけで利益が出るはずはありません。
それでも子会社が期末までにその商品を外部へ売り切っていれば、最終的にはグループの外へ出たことになるので問題は起きません。困るのは、商品が子会社の倉庫に在庫として残っている場合です。この在庫の金額の中には、親会社が上乗せした利益が値札のように含まれたままになっています。これが未実現利益であり、実現していない(まだ外部に売れていない)利益という意味の名前です。
なぜ消去するのか — 消さないと利益も資産も水増しされる
未実現利益をなぜ消すのかという問いへの答えは、消さないと連結財務諸表が2つの意味で嘘をつくからです。1つ目は利益の水増しです。グループ内で商品を回すだけで売上と利益が積み上がるなら、決算日の直前に親会社から子会社へ大量に商品を押し込めば、いくらでも連結の利益を作れてしまいます。2つ目は資産の水増しです。子会社の貸借対照表に載っている商品110円は、グループの外から見れば100円で仕入れたものにすぎません。上乗せ分の10円は、グループが自分で自分に付けた値上げ分です。
そこで連結修正仕訳によって、在庫の金額を仕入れたときの原価まで引き下げ、同額の利益を取り消します。この処理をすることで、連結損益計算書の利益は「本当に外部へ売れた分だけ」になり、連結貸借対照表の棚卸資産は「グループが外部に支払った金額」に戻ります。
連結決算のどの段階で行うか
連結決算の手続きは、親会社の投資と子会社の資本を相殺する資本連結と、グループ内で行われた取引の影響を消す成果連結の2本柱で構成されます。未実現利益の消去は後者の成果連結に属し、内部取引高の相殺、債権債務の相殺に続く3番目の作業として処理されるのが一般的です。連結全体の流れがあいまいな人は、先に連結会計とは何かをまとめた記事で全体像をつかんでから戻ってくると理解が早くなります。
英語では unrealized profit
未実現利益は英語で unrealized profit(または unrealized gain)といい、消去することを elimination of unrealized profit と表現します。グループ内取引そのものは intercompany transactions、消去手続き全体は intercompany elimination と呼ばれます。英文の会計基準や海外子会社を持つ企業の連結パッケージではこの用語が出てくるので、日本語と対で覚えておくと実務で迷いません。
なぜ売上原価を修正するのか — 内部売上高の相殺と在庫の関係
この論点でつまずく人がいちばん多いのが、なぜ売上原価という勘定が出てくるのかという点です。在庫に含まれる利益を消したいのに、相手勘定が売上原価になるのは直感に反します。ここを理屈で押さえておくと、期首と期末、ダウンストリームとアップストリームのどのパターンでも仕訳を思い出せるようになります。
まず内部の売上高と売上原価を相殺する
未実現利益の消去より先に行うのが、グループ内で計上された売上高と仕入(連結上の売上原価)の相殺消去です。親会社が子会社へ110円売れば、親会社の損益計算書には売上高110円が、子会社の損益計算書には同額の仕入110円が立っています。グループを1つの会社とみなす以上、この両方が二重計上なので次の仕訳で打ち消します。
連結損益計算書では三分法の仕入という科目は使わず、売上原価という表示科目で表します。そのため子会社側の仕入は売上原価として相殺されます。この相殺だけでは、売った側と買った側の金額が同額なので利益は動きません。動かないからこそ、在庫に残った利益をもう一段別に消す必要が出てきます。
なぜ売上原価で消すのか — 期末商品を減らすと売上原価が増えるから
売上原価は、期首商品棚卸高に当期仕入高を足し、期末商品棚卸高を差し引いて計算します。つまり期末の在庫を減らせば、その分だけ売上原価が増えるという関係になっています。
未実現利益の消去でやりたいことは、水増しされた期末の在庫110円を、グループが外部に支払った原価100円まで引き下げることです。在庫を10円減らす仕訳の相手勘定は、上の式から必然的に売上原価になります。売上原価が10円増えれば売上総利益が10円減り、結果としてグループ内で付けた利益がきれいに取り消されます。在庫を直接減らすことと利益を取り消すことが、1本の仕訳で同時に達成される仕組みです。
なお、この仕訳で使う商品という勘定は、連結貸借対照表上の棚卸資産を指します。問題文によっては商品ではなく棚卸資産という科目名で答えさせる場合もあるので、答案では指定された勘定科目一覧に従ってください。
連結利益への影響を数字で確かめる
P社が原価100円の商品を110円でS社に売り、S社が期末までに外部へ売っていないとします。個別財務諸表を単純に合算すると、P社の売上高110円と売上総利益10円が乗ったままです。ここで内部売上高の相殺と未実現利益の消去を行うと、連結上の数字は次のように変化します。
| 項目 | 単純合算 | 連結修正後 |
|---|---|---|
| 売上高 | 110 | 0 |
| 売上原価 | 100 | 0 |
| 売上総利益 | 10 | 0 |
| 商品(期末在庫) | 110 | 100 |
外部への販売が1件も起きていないのだから、連結上の売上高も利益もゼロになるのが正しい姿です。在庫は外部への支払額である100円で計上されます。この表の右列を再現することが、未実現利益の消去のゴールだと考えてください。
未実現利益の計算方法 — 利益率・原価率から消去額を出す
仕訳の形が分かっても、消す金額を間違えれば得点になりません。試験では在庫の金額と利益率だけが与えられ、未実現利益そのものは自分で計算する形式がほとんどです。計算方法は2通りの与えられ方を区別できるかどうかで決まります。
基本の考え方 — 対象は期末棚卸資産のうちグループ内から仕入れた分だけ
消去の対象になるのは、期末に残っている棚卸資産のうち、グループ内の会社から仕入れた商品に限られます。子会社が外部の仕入先から直接買った在庫には未実現利益は含まれていないので、手を付けません。問題文では「S社の期末商品のうちP社から仕入れた分は12,000円」といった形で対象額が示されるので、その金額だけを計算の土台にします。
商品有高帳の考え方と同じで、在庫の金額は数量と単価の組み合わせで決まります。単価の中に身内の利益が何円入っているかを取り出す作業だと考えると、計算の意味がつかみやすくなります。単価と数量の扱いに不安がある人は商品有高帳の記事で在庫金額の作られ方を確認しておくと安心です。
利益率で与えられたとき — 売価に率を掛ける
「P社はS社に対して原価に対し利益率20%で販売している」のように書かれていない限り、利益率という言葉は売価を100とした割合を指します。この場合は在庫金額にそのまま率を掛けます。期末在庫12,000円、利益率20%なら、12,000×0.2=2,400円が未実現利益です。売価に対する利益率が20%であれば原価率は80%になり、原価は12,000×0.8=9,600円と検算できます。
原価に対する利益率(付加率)で与えられたとき — 分母に注意する
「原価に20%の利益を加算して販売している」と書かれている場合、20%は原価を100とした割合です。在庫金額は売価ベースなので、そのまま0.2を掛けると計算方法を誤ります。原価100に対して売価120という関係から、売価に占める利益の割合は20/120になります。期末在庫12,000円なら、12,000×20/120=2,000円が未実現利益です。
| 問題文の書き方 | 基準 | 在庫12,000円のときの計算 |
|---|---|---|
| 利益率20% | 売価 | 12,000 × 20/100 = 2,400 |
| 原価率80% | 売価 | 12,000 × (1 − 0.8) = 2,400 |
| 原価に20%を加算 | 原価 | 12,000 × 20/120 = 2,000 |
| 売価は原価の1.2倍 | 原価 | 12,000 × 0.2/1.2 = 2,000 |
同じ20%という数字でも、答えは2,400円と2,000円に分かれます。答案を書く前に、与えられた率の分母が売価と原価のどちらなのかを問題文で必ず確認してください。迷ったら「原価100・売価120」のように具体的な数字を余白に書いて割合を確かめると、計算ミスがほぼ防げます。
ダウンストリームの仕訳 — 期末商品と期首商品
親会社から子会社へ売る取引をダウンストリーム(down stream=川下へ流す)と呼びます。連結会計で最初に習う型であり、出題数も最多です。ここでは期末商品と期首商品の2つの場面に分けて仕訳を確認します。以下の例では、P社がS社へ利益率20%で販売し、S社の期末商品のうちP社から仕入れた分が3,000円だとします。未実現利益は3,000×0.2=600円です。
期末商品の未実現利益 — 売上原価を増やして商品を減らす
期末に売れ残っている在庫には、親会社が付けた利益がそのまま含まれています。連結上はこれを取り消すため、次の連結修正仕訳を切ります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売上原価 | 600 | 商品 | 600 |
この1本で、連結貸借対照表の商品が3,000円から2,400円へ、連結損益計算書の売上原価が600円増えて利益が600円減ります。ダウンストリームでは売った側が親会社なので、減った利益はすべて親会社の株主が負担します。非支配株主持分をいじる必要はなく、仕訳はこの1本で完結します。ここがアップストリームとの決定的な違いです。
期首商品の未実現利益は翌期に実現する
前期末に消去した未実現利益は、その商品が当期中に外部へ売れることで実際に実現します。連結財務諸表は毎期ゼロから作り直す(個別財務諸表を合算して修正し直す)ため、前期に行った消去の効果は当期の帳簿には残っていません。そこで当期は、前期分を引き継いだうえで、それが実現したことを表す処理を行います。
前期末の在庫3,000円がそのまま当期の期首商品になっていた場合、当期の連結修正仕訳は次のようになります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 利益剰余金当期首残高 | 600 | 売上原価 | 600 |
借方の利益剰余金当期首残高は、前期に減らした利益を当期の期首時点の資本として引き継ぐためのものです。貸方の売上原価は、前期に増やした売上原価を当期に取り消す働きをします。売上原価が600円減るので、当期の連結利益は600円増えます。前期に減らした利益が、商品が外部へ売れた当期に戻ってくるという流れです。
翌期の答案は期首と期末の2本立てになる
実際の問題では、期首商品と期末商品の両方に未実現利益が含まれているのが通常です。翌期以降の答案では、次の2本を必ずセットで書きます。
どちらか1本しか書かないのが最も多い失点パターンです。期首の在庫と期末の在庫は別物であり、それぞれ金額も利益率も違いうると考えて、必ず2本書く癖を付けてください。連結2年目以降の全体の流れは簿記2級の連結会計の記事にタイムテーブル込みでまとめてあります。
開始仕訳 — 前期の消去を利益剰余金当期首残高で引き継ぐ
前章で唐突に出てきた利益剰余金当期首残高という科目は、連結2年目以降で必ず登場する開始仕訳の考え方から生まれます。ここを理解すると、丸暗記していた仕訳が自分で組み立てられるようになります。
開始仕訳とは — 前期までの修正をもう一度やり直す
連結修正仕訳は、親会社と子会社の個別の帳簿には一切記帳されません。連結精算表の上だけで行う調整だからです。そのため翌期になって個別財務諸表を合算すると、前期に行った修正はどこにも残っていない状態から始まります。前期までに積み上げた修正をもう一度やり直して連結上の残高を復元する作業が開始仕訳です。
このとき、前期の損益項目(売上原価やのれん償却など)はすでに前期の利益として確定し、期首の利益剰余金に振り替えられています。したがって開始仕訳では、損益項目をすべて利益剰余金当期首残高に置き換えます。これが開始仕訳の唯一のルールです。
未実現利益の開始仕訳を組み立てる
前期末に切った消去の仕訳は「売上原価600 / 商品600」でした。借方の売上原価は損益項目なので、開始仕訳では利益剰余金当期首残高に置き換えます。
| 段階 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 前期に切った仕訳 | 売上原価 600 | 商品 600 |
| 当期の開始仕訳 | 利益剰余金当期首残高 600 | 商品 600 |
| 当期の実現の仕訳 | 商品 600 | 売上原価 600 |
| 2本を合算した答案 | 利益剰余金当期首残高 600 | 売上原価 600 |
開始仕訳で減らした商品600円は、その在庫が当期中に外部へ売れたことで元に戻ります。実現の仕訳「商品600 / 売上原価600」がその処理です。開始仕訳と実現の仕訳では商品が貸借で相殺されるため、答案に書く1本は「利益剰余金当期首残高600 / 売上原価600」になります。前章の仕訳はこうして導かれたものです。
利益剰余金という科目の位置づけ
利益剰余金は、会社が過去に稼いだ利益の累計を表す純資産の科目です。連結株主資本等変動計算書では期首残高・当期変動額・期末残高に分けて表示されるため、期首時点の金額を指すときは利益剰余金当期首残高という名称を使います。答案で単に利益剰余金と書くと不正解になる場合があるので、問題の勘定科目一覧に当期首残高付きの科目があるかを確認してください。
なお、開始仕訳は未実現利益だけでなく、投資と資本の相殺消去、のれんの償却、子会社の当期純利益の按分など、前期までに行ったすべての連結修正仕訳について必要です。実務でも試験でも、連結2年目以降はまず開始仕訳を一括で書いてから当期分の処理に進むのが定石です。
アップストリームの仕訳 — 非支配株主持分への按分が加わる
子会社から親会社へ売る取引をアップストリーム(up stream=川上へ流す)と呼びます。消去する金額の計算はダウンストリームとまったく同じですが、消した利益を誰が負担するかが変わるため、仕訳が1本増えます。ここが未実現利益の消去でもっとも差が付く部分です。
なぜ非支配株主持分が出てくるのか
ダウンストリームで消した利益は、もともと親会社が計上した利益でした。親会社は100%親会社株主のものなので、減った利益もすべて親会社株主が負担します。一方アップストリームで消す利益は、子会社が計上した利益です。子会社の株式を親会社が70%しか持っていなければ、残り30%は非支配株主のものです。子会社の利益が600円減るなら、そのうち180円は非支配株主が負担するのが筋になります。
日本の会計基準はこの考え方を採用しており、未実現利益は全額を消去したうえで、親会社株主と非支配株主に持分比率で按分して負担させます。この方法を全額消去・持分按分法といいます。消す金額を持分比率で減らすわけではない点に注意してください。消去額はあくまで全額です。
期末商品の仕訳 — 2本セットで書く
S社がP社へ利益率20%で販売し、P社の期末商品のうちS社から仕入れた分が3,000円、P社のS社に対する持株比率が70%(非支配株主持分は30%)だとします。未実現利益は600円、そのうち非支配株主の負担分は600×30%=180円です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売上原価 | 600 | 商品 | 600 |
| 非支配株主持分当期変動額 | 180 | 非支配株主に帰属する当期純利益 | 180 |
1本目はダウンストリームとまったく同じです。2本目で、減った利益の30%を非支配株主に肩代わりさせています。非支配株主に帰属する当期純利益を貸方に書くことで、親会社株主に帰属する当期純利益から差し引く金額が180円小さくなり、その分だけ親会社株主の取り分が回復します。
期首商品の仕訳 — 開始仕訳と実現をあわせて3本
翌期は、前期の2本を開始仕訳として引き継いだうえで、実現の処理を重ねます。損益項目を利益剰余金当期首残高に置き換えるという開始仕訳のルールを、非支配株主に帰属する当期純利益にも同じように当てはめるだけです。答案に書く形は次の3本になります。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 利益剰余金当期首残高 | 600 | 売上原価 | 600 |
| 非支配株主持分当期首残高 | 180 | 利益剰余金当期首残高 | 180 |
| 非支配株主に帰属する当期純利益 | 180 | 非支配株主持分当期変動額 | 180 |
テキストによっては下2本をまとめ、「非支配株主に帰属する当期純利益180 / 利益剰余金当期首残高180」と1本で示すこともあります。連結株主資本等変動計算書まで作らせる問題では当期首残高と当期変動額を区別する必要があるため、上の3本の形で理解しておくと応用が効きます。
土地・固定資産の未実現利益 — 売ったときの利益をそのまま消す
未実現利益が生じるのは商品だけではありません。グループ内で固定資産を売買した場合も、買った側がそれを保有し続けている限り、売却益はグループの外で実現していません。試験でよく出るのは土地です。減価償却をしないぶん処理が単純で、商品と対比させやすいためです。
土地を売買したときの仕訳
P社が帳簿価額8,000円の土地をS社へ10,000円で売却し、S社が期末時点でその土地を保有しているとします。P社の個別損益計算書には固定資産売却益2,000円が計上されていますが、グループの外へ土地は出ていないので、この利益は未実現です。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 固定資産売却益 | 2,000 | 土地 | 2,000 |
この仕訳で連結貸借対照表の土地は8,000円に戻り、売却益2,000円が取り消されます。商品の場合と考え方はまったく同じで、水増しされた資産を取得原価まで引き下げ、同額の利益を消しているだけです。問題文に土地売却益や固定資産売却損益といった科目名が指定されていれば、それに合わせてください。
商品との違い — 保有し続ける限り消去が続く
商品の未実現利益は、翌期に外部へ売れることで実現し、消去の効果が解消されます。一方で土地は保有し続ける限り外部に売れないため、消去した状態を毎期引き継がなければなりません。翌期以降は開始仕訳として次の形で持ち越します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 利益剰余金当期首残高 | 2,000 | 土地 | 2,000 |
固定資産売却益は損益項目なので、開始仕訳では利益剰余金当期首残高に置き換わります。商品のように売上原価へ振り替える実現の仕訳は登場しません。S社がその土地を外部の第三者へ売却した年度に初めて利益が実現し、そこで消去が解除されます。
アップストリームと減価償却資産の場合
子会社から親会社へ土地を売却したアップストリームであれば、商品と同じく非支配株主持分への按分が加わります。売却益2,000円、非支配株主持分30%なら「非支配株主持分当期変動額600 / 非支配株主に帰属する当期純利益600」を追加します。
建物や備品のような減価償却を行う固定資産をグループ内で売買した場合は、売却益を消すだけでは足りません。買った側は水増しされた取得原価をもとに減価償却費を計上しているため、その過大分も修正する必要があります。この論点は簿記1級以上の範囲で、簿記2級では土地の売買が中心です。減価償却の計算そのものに不安があれば減価償却の記事で取得原価と耐用年数の関係を確認しておくと、上位級に進んだときに理解が早くなります。
債権債務の相殺と貸倒引当金の調整 — 未実現利益とセットで問われる
未実現利益の消去を学ぶとき、必ず隣に並んで出題されるのが債権債務の相殺と貸倒引当金の調整です。厳密には未実現利益とは別の論点ですが、同じ成果連結の中で連続して処理するため、まとめて理解しておくと答案を書く順番に迷わなくなります。
まず債権と債務を相殺する
グループ内の掛取引で生じた売掛金と買掛金は、自分に対する債権と債務なので連結上は存在しません。受取手形と支払手形、貸付金と借入金も同じです。
相殺の対象になるのはグループ内の相手に対する残高だけです。外部の得意先に対する売掛金には手を付けません。問題文では「S社に対する売掛金5,000円」のように相手先が明示されるので、その金額を拾います。
相殺した債権に付けた貸倒引当金を取り消す
親会社は個別決算で、子会社に対する売掛金にも貸倒引当金を設定しています。ところが連結上その売掛金は消えてしまうので、対応する貸倒引当金も残しておけません。売掛金5,000円に2%の貸倒引当金を設定していたなら、100円を取り消します。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 貸倒引当金 | 100 | 貸倒引当金繰入 | 100 |
貸倒引当金繰入は費用なので、これを貸方に書くと費用が減り、連結利益が100円増えます。未実現利益の消去が利益を減らす方向に働くのに対し、貸倒引当金の調整は利益を増やす方向に働く点が対照的です。
翌期の扱いと非支配株主への按分
翌期は、前期に行った調整を開始仕訳で引き継いだうえで、当期末の債権残高に応じて設定し直します。前期分の調整は「貸倒引当金100 / 利益剰余金当期首残高100」として持ち越し、当期の繰入額を改めて調整するという二段構えです。
また、貸倒引当金を設定していたのが子会社だった場合、つまり子会社が親会社に対する債権に引当金を計上していた場合は、調整によって増えた利益が子会社の利益になります。そのため未実現利益のアップストリームと同じように、非支配株主持分への按分が必要です。「利益が動いた会社が子会社なら按分する」という一本の基準で判断すると、どの論点でも迷いません。
未実現利益の消去に係る税効果会計 — 繰延税金資産と適用する税率
連結上の利益を600円減らしても、税務署に納める税金は1円も減りません。ここに生じるずれを埋めるのが税効果会計です。この論点は簿記2級の出題範囲には含まれていませんが、1級や公認会計士試験、そして実務の連結決算では必須になります。
なぜ税効果が必要か — 会計と税務のずれ
未実現利益の消去は、連結財務諸表を作るときだけの調整です。親会社の個別の申告では、グループ内の販売であっても売上として課税所得に含まれ、その利益に対する税金はすでに支払われています。つまり連結損益計算書では利益が600円減っているのに、法人税等の金額は減らないままです。このままでは税引前当期純利益と法人税等が対応せず、税負担率が不自然に高く見えてしまいます。
消去された利益は、その商品が外部へ売れた期に連結上の利益として復活します。将来の期に課税所得を減らす効果はもう発生しない一方で、会計上の利益が将来増える形になるため、この差は将来減算一時差異として扱われ、繰延税金資産を計上します。
仕訳と計算 — 実効税率を掛けるだけ
未実現利益600円、法定実効税率30%とすると、税効果の仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 売上原価 | 600 | 商品 | 600 |
| 繰延税金資産 | 180 | 法人税等調整額 | 180 |
法人税等調整額を貸方に計上することで法人税等の負担が180円軽くなったように表示され、税引後の利益に与える影響は600−180=420円に収まります。土地の未実現利益でも考え方は同じで、消去額に実効税率を掛けた金額の繰延税金資産を計上します。
アップストリームで非支配株主持分に按分する場合は、税効果を加味した後の金額を按分します。上の例で非支配株主持分が30%なら、420×30%=126円が非支配株主の負担分になります。税効果を無視して600×30%=180円としないよう注意してください。
適用する税率は売却元のもの
日本基準では、未実現利益の消去に係る繰延税金資産は、売却した側の会社に売却年度に適用された法定実効税率で計算します。実際に税金を納めたのが売却元であり、その金額はすでに確定しているという考え方によるものです。そのため、その後に税率が改正されても、この繰延税金資産の金額は洗い替えられません。他の一時差異が将来の税率で計算し直されるのとは扱いが異なる、例外的な取り扱いです。
また、繰延税金資産として計上できる将来減算一時差異の額は、売却元の売却年度の課税所得を超えることはできないという制限もあります。売却元が赤字で税金を納めていなければ、そもそも取り戻す税金が存在しないためです。実務ではこの判定と回収可能性の検討が必要になるので、細かい適用は監査法人や公表されている実務指針で確認してください。
簿記2級ではどこまで出るか — 範囲と解く順番
連結会計はもともと簿記1級の論点でしたが、出題区分表の改定により2017年11月試験から簿記2級の商業簿記に加わりました。未実現利益の消去のうちダウンストリームはこのときから、アップストリームは2018年6月試験から範囲に入っています。2016年以前に出版されたテキストにはそもそも載っていないので、中古の教材を使う場合は発行年を必ず確認してください。出題区分表は改定されることがあるため、受験する年度の範囲は日本商工会議所の公式サイトで最新情報を確認するのが確実です。
2級で問われるパターンと問われないもの
| 論点 | 2級での扱い |
|---|---|
| 期末商品・期首商品の未実現利益(ダウンストリーム) | 頻出 |
| アップストリームと非支配株主持分への按分 | 頻出 |
| 土地の未実現利益 | 出題あり |
| 未実現利益の消去に係る税効果 | 範囲外(1級以上) |
| 減価償却資産の未実現利益 | 範囲外(1級以上) |
| 持分法 | 範囲外(1級以上) |
2級の税効果会計で問われる一時差異は、貸倒引当金などの引当金、減価償却費の償却限度超過額、その他有価証券の評価差額の3つに限られます。未実現利益の消去に税効果を適用する問題は2級では出ないので、学習段階では税効果を絡めずに仕訳の型を固めるのが効率的です。試験全体の位置づけや勉強時間の目安は簿記2級の総合ガイドにまとめています。
本試験での解く順番
連結の問題は第2問で20点前後の配点があり、部分点を積みやすい構造になっています。おすすめの手順は次のとおりです。
- タイムテーブルを書き、支配獲得日からの年数と持株比率を確認する
- 開始仕訳をまとめて書く(投資と資本の相殺、のれん償却の累計、利益の按分)
- 当期の資本連結(のれん償却、当期純利益の按分、配当の修正)を処理する
- 成果連結を、内部取引高の相殺 → 債権債務の相殺 → 貸倒引当金の調整 → 未実現利益の消去の順で処理する
- アップストリームがあれば、最後に非支配株主持分への按分を追加する
未実現利益を最後に回すのは、非支配株主持分への按分がこの段階でまとめて確定するからです。時間が足りないときでも、内部取引高の相殺と債権債務の相殺だけは配点が取りやすいので必ず埋めてください。
持分法とIFRSでの扱い — 上位級・実務で押さえる違い
ここまでは子会社を連結する前提で説明してきました。持分法適用会社が相手の場合や、IFRSを適用している企業では扱いが少し変わります。1級や公認会計士試験、実務の連結決算に進む人向けに整理しておきます。
持分法では持分比率相当額だけを消去する
関連会社のように支配はしていないが重要な影響を与えられる会社には、連結ではなく持分法を適用します。持分法適用会社との取引で生じた未実現損益については、企業会計基準第16号「持分法に関する会計基準」により、投資会社の持分比率に応じた金額だけを消去します。子会社との取引で全額を消去するのとはここが違います。
たとえば持分比率25%の関連会社に商品を販売し、未実現利益が1,000円残っていれば、消去するのは1,000×25%=250円です。相手を丸ごと合算しているわけではなく、投資勘定を通じて持分相当額だけを取り込んでいるためです。なお持分法の適用にあたっては重要性の原則が働き、金額的に重要性が乏しい未実現損益は消去しないことも認められています。
IFRSとの違いは主に税効果の税率
IFRSでも連結上のグループ内取引から生じた未実現利益は全額消去します。この点は日本基準と実質的に変わりません。違いが出るのは税効果に使う税率です。日本基準が売却元の税率を使うのに対し、IFRSでは資産を保有している買手側の税率で一時差異を計算します。国内グループだけであれば税率が同じなので差は出ませんが、税率の異なる海外子会社が絡むと連結上の税金費用に差が生じます。
また持分法についても、IFRSではIAS第28号が投資者の持分に相当する部分を消去すると定めており、日本基準と考え方はそろっています。IFRSと日本基準の差が大きいのはのれんの償却の有無や減損の戻入れであり、未実現利益の消去そのものは比較的差の小さい論点だと理解しておけば十分です。
まとめ — 型は4つ、判断基準は2つ
未実現利益の消去は覚えることが多く見えますが、押さえるべき仕訳の型は多くありません。最後に全体を整理します。
この4つに、アップストリームなら「非支配株主持分当期変動額 / 非支配株主に帰属する当期純利益」を、税効果を考える場面なら「繰延税金資産 / 法人税等調整額」を足すだけです。
判断に使う基準も2つしかありません。1つ目は、消す金額の計算に使う率が売価基準か原価基準かという判断です。原価に上乗せする形で書かれていたら、分母を売価に直してから掛けます。2つ目は、利益が動いた会社が親会社か子会社かという判断です。子会社の利益が動いたのなら、非支配株主にも持分比率で負担してもらいます。この2つを問題文で確認する習慣が付けば、初見の設定でも手が止まりません。
連結の仕訳は、頭で理解しただけでは本番の速度で書けるようになりません。売上原価と商品、利益剰余金当期首残高と売上原価という組み合わせが、考えなくても手が動くところまで反復するのが最短ルートです。学猿の仕訳ドリルは、勘定科目を選んで金額を入力する本試験と同じ形式で、間違えた問題だけを自動で復習に回します。1日5分から積み上げられるので、テキストを読んだ直後にその場で手を動かして定着させてください。

