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商品有高帳とは?書き方と記入例をわかりやすく解説|先入先出法・移動平均法と売上原価の求め方

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商品有高帳とは、商品の種類ごとに受入・払出・残高を原価で記録する補助簿です。3つの欄の書き方の大原則から、先入先出法と移動平均法の記入例、返品や仕入諸掛りの扱い、月末の締め切り、売上原価と売上総利益の求め方、簿記3級 第2問での出題まで具体例つきで解説します。

商品有高帳とは?商品の在庫を原価で管理する補助簿

商品有高帳(しょうひんありだかちょう)とは、商品の種類ごとに、受け入れた数量・払い出した数量・残っている数量を、単価と金額つきで記録していく帳簿です。「有高」は「ありだか」と読み、その時点で手元にどれだけの商品が残っているかを意味します。仕入れれば増え、売り上げれば減る商品の動きを、1品目につき1ページを使って追いかけていくのが商品有高帳の役割です。

簿記を学び始めると「仕入」や「売上」という勘定科目で商品の取引を記録します。しかし三分法で仕訳を切っても、総勘定元帳仕入勘定に集まるのは金額だけで、「どの商品が何個、いくらで残っているのか」は分かりません。この足りない明細を補うために作るのが商品有高帳です。

商品有高帳を作る目的 — 払出単価を決めて売上原価を計算する

商品有高帳の最大の目的は、払い出した商品の単価(払出単価)を決めることにあります。同じ商品でも、仕入れた時期によって単価は変わります。1個80円で仕入れた回もあれば、90円に値上がりした回もある。そこから10個売れたとき、その10個の原価は800円なのか900円なのか、あるいはその中間なのか — これを決めるルールがなければ、売上原価も利益も計算できません。

そこで、あらかじめ払出単価の決め方(先入先出法や移動平均法)を1つ選び、そのルールに従って帳簿上で在庫を払い出していきます。商品有高帳はこの計算を1行ずつ積み上げていく計算用紙でもあり、記入し終えたときには払出欄の金額合計がそのまま売上原価になり、残高欄の金額が期末の在庫金額になります。

もう1つの目的が在庫管理です。数量が常に見えるので、品切れや過剰在庫に気づけます。棚卸しで実際の数量を数えたときに、帳簿上の残高と合わなければ棚卸減耗が起きたと分かる — その照合の基準になるのも商品有高帳です。

簿記における位置づけ — 主要簿と補助簿のどこにあるか

簿記で使う帳簿は、必ず作る主要簿と、必要に応じて作る補助簿に分かれます。主要簿は仕訳帳と総勘定元帳の2つだけで、取引はまず仕訳帳に発生順で仕訳として記録され、そこから各勘定へ転記されて総勘定元帳ができあがります。試算表も精算表も、この総勘定元帳から作られます。

これに対して補助簿は、主要簿だけでは足りない明細を補うための帳簿です。補助簿はさらに、取引の明細を発生順に記録する補助記入帳(現金出納帳・仕入帳・売上帳など)と、特定の勘定を細かく分解して管理する補助元帳(売掛金元帳・買掛金元帳・固定資産台帳など)に分かれます。商品有高帳は補助元帳に属し、商品の在庫を品目ごとに分解して管理する帳簿です。

1つの仕入取引は主要簿と商品有高帳の両方に記録される 取引:A商品10個(@80円)を掛けで仕入れた 仕訳帳(主要簿) 総勘定元帳(主要簿) 仕入勘定に 800円 金額だけが分かる 商品有高帳(補助簿) A商品 10個 @80円 数量と単価まで分かる
同じ取引が主要簿と補助簿両方に記録される。金額しか残らない総勘定元帳を、数量と単価で補うのが商品有高帳

図のとおり、1つの取引は主要簿と補助簿の両方に記録されます。総勘定元帳仕入勘定には「800円」という金額だけが残りますが、商品有高帳には「A商品を10個、単価80円で受け入れた」という明細が残る。この二重の記録によって、金額の集計と在庫の把握を同時に成り立たせているわけです。

どんな取引を商品有高帳に記入するのか

記入するのは商品そのものが動いた取引だけです。判断に迷ったら「商品が倉庫に入ったか、倉庫から出たか」を考えれば、ほぼ間違えません。

  • 受入欄に記入する取引 — 商品を仕入れたとき、売り上げた商品が返品されてきたとき(売上戻り)
  • 払出欄に記入する取引 — 商品を売り上げたとき、仕入れた商品を返品したとき(仕入戻し)
  • 記入しない取引 — 商品の代金だけが動いたとき(掛け代金の回収・支払い、手付金の授受など)

掛けで売り上げた代金を後日現金で回収した、という取引では商品は1個も動いていないので、商品有高帳には何も書きません。逆に、代金が未払いでも商品が届いていれば受入欄に記入します。お金の動きではなく、モノの動きで判断するのが商品有高帳の考え方です。

なお、1つの取引は複数の補助簿に同時に記入されます。「商品を掛けで仕入れた」なら、仕入帳・商品有高帳・買掛金元帳の3つに記入されます。仕入の取引がどの帳簿に波及するかを整理しておくと、簿記3級補助簿の選択問題で迷わなくなります。

商品有高帳の書き方 — 受入・払出・残高の3つの欄

商品有高帳の様式は、どの教材でもほぼ共通です。左端に日付と摘要があり、その右に受入欄・払出欄・残高欄という3つのブロックが並びます。そしてこの3つのブロックはいずれも、数量・単価・金額の3列で構成されています。つまり列が9つ並ぶ横長の表になり、初めて見ると圧倒されますが、実際には同じ3列の繰り返しにすぎません。

商品有高帳は受入・払出・残高の3欄でできている 日付 摘要 受入 払出 残高 数量 単価 金額 数量 単価 金額 数量 単価 金額 4/1 前月繰越 10 80 800 10 80 800 4/12 売上 6 80 480 4 80 320 3つの欄はどれも 数量・単価・金額 の3列
A商品の商品有高帳。受入・払出・残高の3ブロックがそれぞれ数量・単価・金額を持ち、残高欄は1行ごとに更新される

各欄が何を表しているか

3つの欄の役割は、倉庫の出入りをイメージすると一度で頭に入ります。受入欄が「倉庫に入ってきた分」、払出欄が「倉庫から出ていった分」、残高欄が「その取引の直後に倉庫に残っている分」です。

日付・摘要
取引の日付と、その取引の内容(前月繰越・仕入売上仕入戻し・売上戻り・次月繰越など)を簡潔に書く。金額の根拠を後から追えるようにするための欄。
受入欄
商品が増えた取引を記入する。仕入れたときの数量と仕入単価、その積である金額を書く。
払出欄
商品が減った取引を記入する。数量は実際に払い出した個数、単価は先入先出法や移動平均法で決めた払出単価。
残高欄
受入・払出を反映したあとの在庫を書く。1行記入するごとに必ず更新するのが鉄則で、空欄のまま次の行に進んではいけない。

3つの欄の間には、常に「前の行の残高 + 今回の受入 − 今回の払出 = 今回の残高」という関係が成り立ちます。数量でも金額でもこの式が成立するので、記入した行の残高が合わないときは、この式で1行ずつ検算すればどこでずれたかがすぐ分かります。

大原則① すべて原価で記入する — 売価は一切登場しない

商品有高帳に書く単価と金額は、すべて原価(仕入原価)です。これが商品有高帳で最も重要なルールであり、同時に最も多くの受験者がつまずく場所でもあります。

たとえば1個80円で仕入れた商品を、1個120円で6個売り上げたとします。売上の仕訳は「売掛金720/売上720」で、720円という売価が登場します。しかし商品有高帳の払出欄に書くのは 6個 × @80円 = 480円 であって、720円ではありません。倉庫から出ていったのは「原価80円の商品6個」であり、いくらで売れたかは在庫の記録とは無関係だからです。

この帳簿の目的が「払い出した商品の原価を積み上げて売上原価を求めること」にあると思い出せば、売価を書く余地がないことは自然に理解できます。摘要欄に「売上」と書いてあっても、その行の単価は必ず原価 — この1点を徹底するだけで失点が大きく減ります。

大原則② 単価の異なる在庫は行を分けて書く

もう1つの大原則が、残高欄に単価の異なる商品が同居するときは、行を分けて書くことです。1個80円の在庫が4個と、1個90円の在庫が10個ある状態を「14個」の1行にまとめてしまうと、次に払い出すときにどちらの単価を使うのか分からなくなります。

そこで残高欄を2段に分け、上に「4個 @80円 320円」、下に「10個 @90円 900円」と書き、2行をまとめて中括弧 { でくくります。これで、次の払い出しでは上の80円の在庫から順に使う、という先入先出法の処理がそのまま帳簿の形になります。

ただしこの行分けが必要なのは先入先出法だけです。移動平均法では仕入れるたびに在庫全体を1つの平均単価に均してしまうため、残高欄は常に1行で済みます。行が分かれるかどうかは、採用した払出単価の決め方によって決まる — 次章から、その2つの方法を具体的な数字で見ていきます。

先入先出法の記入例 — 古い在庫から先に払い出す

先入先出法(さきいれさきだしほう)は、先に仕入れた商品から先に払い出したとみなして払出単価を決める方法です。英語の First In, First Out からFIFO(ファイフォ)とも呼ばれます。生鮮食品を古いものから店頭に並べるのと同じ発想で、実際のモノの流れに最も近い方法といえます。

ここからは次のA商品の4月の取引を例に、先入先出法と移動平均法の両方で記入していきます。同じ取引を2通りに処理するので、方法によって何がどう変わるかを見比べてください。

  • 4月1日 前月繰越 10個(原価@80円)
  • 4月8日 仕入 20個(原価@95円)
  • 4月12日 売上 15個(売価@140円)
  • 4月20日 仕入 15個(原価@100円)
  • 4月25日 売上 20個(売価@150円)

先入先出法で記入した商品有高帳

先入先出法で記入すると次のようになります。金額欄が「数量 × 単価」になっていること、単価の異なる在庫が残高欄で2段に分かれていることを確認してください。

日付・摘要受入払出残高
4/1 前月繰越10個 @80 = 80010個 @80 = 800
4/8 仕入20個 @95 = 1,90010個 @80 = 800
20個 @95 = 1,900
4/12 売上10個 @80 = 800
5個 @95 = 475
15個 @95 = 1,425
4/20 仕入15個 @100 = 1,50015個 @95 = 1,425
15個 @100 = 1,500
4/25 売上15個 @95 = 1,425
5個 @100 = 500
10個 @100 = 1,000

1行ずつ、何をしているのか

4月8日の仕入では、受入欄に20個 @95円 = 1,900円と書きます。このとき残高欄には、もともとあった80円の在庫10個と、今回入ってきた95円の在庫20個が並びます。単価が違うので合計30個とはまとめず、2行に分けて中括弧でくくるのが先入先出法の書き方です。この時点の在庫金額は 800 + 1,900 = 2,700円です。

4月12日の売上が先入先出法の核心です。15個売れましたが、先に仕入れたものから払い出すので、まず古い80円の在庫10個をすべて使い切り、足りない5個を次に古い95円の在庫から取ります。払出欄には「10個 @80 = 800」「5個 @95 = 475」と2行で書き、この行の払出額は合計1,275円になります。売価の140円はどこにも登場しません。払い出した残りとして、残高欄には95円の在庫が15個(1,425円)だけが残ります。

4月20日の仕入で100円の在庫が15個入り、残高欄はふたたび95円の15個と100円の15個の2段になります。4月25日の売上20個では、古いほうの95円の在庫15個を使い切り、残る5個を100円の在庫から払い出します。払出額は 1,425 + 500 = 1,925円。月末に残るのは100円の在庫10個、1,000円です。

先入先出法で間違えやすい3つのポイント

記入ルール自体は単純ですが、答案では次の3点で差がつきます。

  1. 払出欄が2行になる行を1行にまとめてしまう — 単価の異なる在庫をまたいで払い出したときは、払出欄も単価ごとに行を分けます。合計だけを書くと、部分点の対象となる単価の記入が消えてしまいます。
  2. 古い在庫が残っているのに新しい単価から払い出す — 先入先出法では在庫の並び順が固定です。上の段(古いほう)を使い切ってから下の段に進む、という順序を機械的に守ります。
  3. 残高欄の更新を飛ばす — 払出額を計算して満足し、残高欄が前の行のままになっているケースが目立ちます。1行書いたら必ず残高を更新してから次の日付に進んでください。

この帳簿を最後まで書き切ると、払出欄の金額合計 1,275 + 1,925 = 3,200円がそのままA商品の売上原価になります。売上原価の求め方は後の章で改めて扱いますが、簿記3級の練習問題では帳簿の完成と売上原価の計算がセットで問われることが多いので、記入と同時に払出欄の合計を意識しておくと解答が速くなります。

移動平均法の記入例 — 仕入のつど平均単価を計算し直す

移動平均法(いどうへいきんほう)は、単価の異なる商品を仕入れるたびに在庫全体の平均単価を計算し直し、その平均単価を払出単価として使う方法です。古い在庫と新しい在庫を区別せず、倉庫の中で混ざり合ったものとして扱う考え方で、「移動」という名前は仕入のたびに平均単価が動いていくことを表しています。

平均単価は次の式で求めます。分子は金額どうし、分母は数量どうしを足す、という対応さえ崩さなければ計算は難しくありません。

平均単価=残高金額+受入金額残高数量+受入数量平均単価 = \frac{残高金額 + 受入金額}{残高数量 + 受入数量}

移動平均法で記入した商品有高帳

前章と同じA商品の取引(4/1 前月繰越10個 @80円、4/8 仕入20個 @95円、4/12 売上15個、4/20 仕入15個 @100円、4/25 売上20個)を、今度は移動平均法で記入します。

日付・摘要受入払出残高
4/1 前月繰越10個 @80 = 80010個 @80 = 800
4/8 仕入20個 @95 = 1,90030個 @90 = 2,700
4/12 売上15個 @90 = 1,35015個 @90 = 1,350
4/20 仕入15個 @100 = 1,50030個 @95 = 2,850
4/25 売上20個 @95 = 1,90010個 @95 = 950

平均単価をどう計算しているか

4月8日の仕入で、最初の平均単価の計算が発生します。もともとの在庫は10個で800円、そこへ20個で1,900円が入ってきました。金額の合計 800 + 1,900 = 2,700円を、数量の合計 10 + 20 = 30個で割ると、平均単価は90円です。残高欄には行を分けずに「30個 @90 = 2,700」とだけ書きます。80円と95円という元の単価は、この時点で帳簿から消えます。

4月12日の売上では、直前に求めた平均単価90円をそのまま払出単価に使います。15個 × @90円 = 1,350円が払出額です。残高は 30 − 15 = 15個、金額は 2,700 − 1,350 = 1,350円。払い出しでは平均単価を計算し直さないのがポイントで、在庫が減っても単価は変わりません。

4月20日の仕入で2回目の平均単価の計算です。残高1,350円 + 受入1,500円 = 2,850円を、15個 + 15個 = 30個で割って、新しい平均単価は95円になります。4月25日の売上20個はこの95円で払い出すので 1,900円、月末残高は10個 × @95円 = 950円です。

移動平均法で間違えやすいポイント

移動平均法の失点は、平均単価の計算タイミングに集中しています。

  • 売上のたびに平均単価を計算し直してしまう — 単価が動くのは受入(仕入)のときだけです。払出の行では、直前の残高欄の単価をそのまま使います。
  • 仕入単価そのものを払出単価に使ってしまう — 4月20日に@100円で仕入れたからといって、4月25日の払出単価は100円ではありません。計算し直した平均の95円を使います。
  • 平均単価が割り切れないときに端数を勝手に丸める — 試験では割り切れる数字が用意されるのが通常ですが、割り切れない場合は問題文の指示(円未満四捨五入など)に必ず従います。指示がないのに自分で丸めると、以降の行がすべてずれます。

移動平均法の利点は、残高欄が常に1行で済むため記入が速く、在庫の平均的な原価が一目で分かることです。一方で仕入のたびに割り算が発生するので、電卓が使えない場面では先入先出法より手間がかかります。この帳簿での払出欄の合計は 1,350 + 1,900 = 3,250円で、先入先出法の3,200円とは50円の差が出ました。同じ取引でも方法が違えば売上原価も利益も変わる — この差が何を意味するのかを、次の章で整理します。

先入先出法と移動平均法の違い・使い分けと総平均法

ここまで同じ取引を2通りに記入してきました。仕入れた商品も売った個数もまったく同じなのに、売上原価は先入先出法が3,200円、移動平均法が3,250円と食い違います。払出単価の決め方が違えば、売上原価も期末在庫も利益も変わる — これが2つの方法を学ぶ意味です。

同じ在庫でも先入先出法と移動平均法で払出単価が変わる 在庫 10個@80 + 20個@95 から 15個を払い出す 先入先出法 古い10個 @80 = 800 次の5個 @95 = 475 払出 1,275円 移動平均法 2,700 ÷ 30個 = @90 15個 @90 = 1,350 払出 1,350円 同じ在庫・同じ数量でも払出額は変わる
4月12日の払い出しを2つの方法で比較。先入先出法は古い単価を優先し、移動平均法は在庫を1つの平均単価に均す

2つの方法の違いを一覧で整理する

計算の考え方だけでなく、帳簿の書き方や試算の手間まで含めると違いは次のようにまとまります。

比較項目先入先出法移動平均法
払出単価の決め方古く仕入れた在庫の単価から順に使う仕入のつど計算し直した平均単価を使う
残高欄の書き方単価ごとに行を分けて中括弧でくくる常に1行にまとまる
単価が変わる場面古い在庫を使い切ったとき仕入(受入)があったとき
計算の手間割り算は不要だが行数が増える行数は少ないが毎回割り算が必要
例題での売上原価3,200円3,250円
例題での期末在庫1,000円950円

どちらが有利か — 価格の動きで結果が逆転する

例題では仕入単価が80円 → 95円 → 100円と上がり続けていました。この価格上昇局面では、先入先出法のほうが売上原価が小さく、利益と期末在庫が大きく出ます。古くて安い単価から先に費用にしていくので、高い単価の在庫が資産として手元に残るからです。実際、売上高5,100円に対する売上総利益は先入先出法が1,900円、移動平均法が1,850円になります。

逆に仕入単価が下がり続ける局面では、先に払い出される古い在庫のほうが高いため、先入先出法の売上原価が大きくなり利益は小さく出ます。どちらが常に有利ということはなく、価格がどちらに動いているかで結果が入れ替わるという関係です。移動平均法は仕入単価の変動をならすため、どちらの局面でも両者の中間的な数値に落ち着きます。

なお、簿記の試験でどちらを使うかを自分で選ぶ場面はありません。問題文に「先入先出法により記入しなさい」「移動平均法による」と必ず指定があります。指定の見落としが致命傷になるので、解き始める前に問題文の該当箇所に印をつける習慣をつけてください。実務では会社が採用した方法を継続して適用するのが原則で、利益操作を避けるために年度ごとに都合よく変えることは認められていません。

総平均法・個別法との関係 — 3級の範囲はどこまでか

払出単価の決め方は、この2つだけではありません。日商簿記3級で扱うのは先入先出法と移動平均法の2つで、次の方法は3級の範囲外です。

総平均法(平均法)
一定期間(月間や年間)の受入をまとめて1つの平均単価にする方法。期間が終わるまで単価が確定しないため期中の払出単価が出せない。日商簿記2級の範囲
個別法
商品1個ごとに実際の仕入単価をひも付けて払い出す方法。宝石や中古車のような個別性の高い商品で使われる。
最終仕入原価法
期末に最も近い仕入単価で期末在庫を評価する方法。税務上の簡便法として実務で広く使われる。

「総平均法も覚えたほうがよいのでは」と不安になるかもしれませんが、3級の学習段階では2つの方法に絞って構いません。総平均法は移動平均法の平均を取る範囲を期間全体に広げただけなので、2級に進んだときに自然に理解できます。

返品・仕入諸掛り・月末の締め切り — 間違えやすい記入

通常の仕入と売上だけを追いかけているうちは順調でも、返品や引取運賃が混ざった瞬間に手が止まる — 商品有高帳でよくある行き詰まりです。ここでは記入に迷いやすい3つの場面を、判断の基準ごと整理します。

返品があったときの記入 — 仕入戻しと売上戻り

返品も商品が動く取引なので、商品有高帳に必ず記入します。判断の基準はこれまでと同じで、商品が倉庫から出ていくなら払出欄、倉庫に戻ってくるなら受入欄です。仕訳の借方・貸方につられないでください。

仕入戻し(こちらが仕入先へ返品した)
商品は倉庫から出ていくので払出欄に記入する。単価は先入先出法や移動平均法で決めた払出単価ではなく、返品した商品を仕入れたときの単価をそのまま使う。あわせて残高欄からその在庫を取り消す。
売上戻り(得意先からこちらへ返品された)
商品は倉庫に戻ってくるので受入欄に記入する。単価は、その商品を払い出したときに使った払出単価をそのまま戻す。売価では記入しない。

売上戻りで新しく仕入れたかのように扱ってしまうと、残高欄の単価がずれて以降の行がすべて狂います。返品は「取引を巻き戻す処理」であり、巻き戻す前の単価に戻すのが原則と覚えてください。移動平均法で売上戻りがあった場合も、いったん元の払出単価で受け入れたうえで、残高欄の金額と数量から平均単価を計算し直します。

仕入諸掛りは仕入原価に含めて受入単価を作る

商品を仕入れるときには、引取運賃・保険料・関税といった付随費用がかかることがあります。これを仕入諸掛り(しいれしょがかり)といい、当社が負担する仕入諸掛りは商品の仕入原価に含めます。商品有高帳の受入単価も、この諸掛りを含めた金額から計算します。

たとえば20個を1個90円で仕入れ、引取運賃100円を現金で支払ったとします。仕入原価の合計は 20個 × 90円 + 100円 = 1,900円。これを20個で割った@95円が商品有高帳に書く受入単価です。第4章までの例題で使った@95円は、まさにこの形で作った単価でした。運賃を別行に分けて書いたり、諸掛りを無視して@90円で記入したりすると、以降の払出単価がすべてずれます。

一方、商品を売るときにかかる発送費(売上諸掛り)は、商品の原価とは無関係の費用なので商品有高帳には記入しません。仕入側の諸掛りは単価に溶かし込み、売上側の諸掛りは帳簿の外という非対称を押さえておけば迷いません。なお先方負担の運賃を立て替えた場合は立替金などで処理し、これも仕入原価には含めません。

月末の締め切りと次月繰越の書き方

商品有高帳は月ごとに締め切ります。締め切りの手順は決まっており、次の順番で進めます。

  1. 最終行の残高欄を確認し、月末に残っている在庫の数量・単価・金額を確定する。
  2. 次の行の摘要欄に「次月繰越」と書き、月末残高と同じ数量・単価・金額を払出欄に記入する。実際には払い出していないが、帳簿を閉じるために形式的に払い出す。この行は赤字(朱記)で書くのが伝統的なルール。
  3. 受入欄と払出欄それぞれの数量・金額を合計し、両者が一致することを確認して合計線を引く。
  4. 翌月の最初の行に「前月繰越」と書き、繰り越した在庫を受入欄に記入して次の月を始める。

例題のA商品(先入先出法)なら、4月末の残高は10個 @100円 = 1,000円でした。次月繰越として払出欄に同じ数字を書くと、受入欄の合計は 800 + 1,900 + 1,500 = 4,200円、払出欄の合計は 1,275 + 1,925 + 1,000 = 4,200円となり一致します。この一致は必ず成立するので、締め切りの計算は同時に検算にもなります。合計が合わないときは、どこかの行で残高の更新を飛ばしているか、払出単価を取り違えています。

単価の異なる在庫が2段で残っている場合は、次月繰越も単価ごとに行を分けて書きます。前月繰越として翌月に持ち込むときも同じ2段のまま受入欄に記入し、古いほうを上に置きます。順序を入れ替えると先入先出法の前提が崩れるので注意してください。

商品有高帳から売上原価と売上総利益を求める

商品有高帳を完成させると、そこから直接売上原価売上総利益を計算できます。試験でも「商品有高帳を作成し、あわせて売上総利益を求めなさい」という形で一体的に問われるのが定番です。帳簿を書き終えたら計算はほぼ終わっている、という状態を作るのが理想です。

売上原価は払出欄の金額合計 — ただし次月繰越は除く

売上原価は、払出欄に記入した金額のうち、売上によるものだけを合計した金額です。例題のA商品(先入先出法)なら、4月12日の1,275円と4月25日の1,925円を足した3,200円が売上原価になります。

ここで注意すべきは、払出欄に並ぶ行がすべて売上原価になるわけではないことです。前章で見た次月繰越の行は、締め切りのために形式的に払い出しただけなので売上原価には含めません。同様に、仕入戻しによる払出も商品を返しただけであって売れたわけではないので除きます。「払出欄の合計 = 売上原価」と機械的に覚えると、締め切り後の帳簿から拾うときに必ず間違えます。摘要欄が「売上」の行だけを拾う、と覚えるのが安全です。

もう1つの求め方が、決算でおなじみのボックス計算です。

売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高期末商品棚卸高売上原価 = 期首商品棚卸高 + 当期商品仕入高 - 期末商品棚卸高

例題に当てはめると、期首(前月繰越)800円 + 仕入(1,900 + 1,500)3,400円 − 期末(次月繰越)1,000円 = 3,200円。払出欄から拾った金額と一致しました。2通りの求め方で同じ数字になることを確認するのが最も確実な検算です。答案では片方で計算し、もう片方で検算する — この習慣があるだけで得点が安定します。決算での売上原価の算定(いわゆる仕入・繰商・繰商・仕入の仕訳)については簿記3級の決算で詳しく扱っています。

売上総利益は売上高から売上原価を引く

売上総利益(粗利)は、売った金額から売った商品の原価を引いた儲けです。

売上総利益=売上売上原価売上総利益 = 売上高 - 売上原価

売上高は売価で計算します。商品有高帳には売価が一切載っていないので、この数字だけは問題文の売価から自分で計算しなければなりません。例題では4月12日に15個を@140円、4月25日に20個を@150円で売っているので、売上高は 15 × 140 + 20 × 150 = 2,100 + 3,000 = 5,100円です。

したがって先入先出法での売上総利益は 5,100 − 3,200 = 1,900円。移動平均法で記入した場合は売上原価が3,250円なので、5,100 − 3,250 = 1,850円となり、50円小さくなります。売上高は方法によらず同じなので、売上総利益の差はそのまま売上原価の差である、という関係を押さえておいてください。

解答の手順と検算の型

実際の問題では、次の順序で進めると迷いません。

  1. 問題文で払出単価の決め方(先入先出法か移動平均法か)を確認し、印をつける。
  2. 取引を日付順に商品有高帳へ記入する。1行ごとに残高欄を更新する。
  3. 摘要欄が「売上」の行の払出金額を合計し、売上原価を出す。
  4. 問題文の売価から売上高を計算し、売上原価を引いて売上総利益を出す。
  5. 「期首 + 仕入 − 期末」でも売上原価を計算し、③と一致するか検算する。

売上総利益率(売上総利益 ÷ 売上高)まで問われることもあります。例題の先入先出法なら 1,900 ÷ 5,100 ≒ 37.3% です。指示された小数点以下の桁数に必ず従い、途中の金額を丸めずに最後だけ丸めるのが原則です。

簿記3級での出題傾向と対策・実務での商品有高帳

商品有高帳は、日商簿記3級で確実に押さえておきたい論点の1つです。出題される場所と形式が決まっているため、対策の費用対効果が高いテーマでもあります。

第2問(配点20点)の頻出テーマとして出る

商品有高帳が出るのは第2問です。第2問は配点20点、2題構成で、勘定記入・補助簿・伝票・語句補充などが入れ替わりで出題されます。そのなかで商品有高帳は補助簿の作成問題として繰り返し登場し、公式サンプル問題にも移動平均法による商品有高帳と売上総利益を問う出題が含まれています。第2問全体の対策は簿記3級 第2問で詳しく解説しています。

出題の形式は大きく2つに分かれます。

出題形式問われること目安時間
作成問題指定された方法で帳簿を完成させ、売上原価・売上総利益まで計算する8〜12分
補助簿の選択示された取引が商品有高帳を含むどの補助簿に記入されるかを選ぶ1〜2分

補助簿の選択は知識だけで解けるボーナス問題です。ポイントは1つの取引が複数の補助簿に記入されること。「商品を掛けで仕入れ、引取運賃を現金で支払った」なら、仕入帳・商品有高帳・買掛金元帳・現金出納帳の4つに記入されます。取引をいったん仕訳に直し、借方・貸方に出た勘定科目ごとに対応する帳簿を拾っていけば漏れません。

失点を防ぐ3つのチェックポイント

本試験で商品有高帳を落とす原因は、ほぼ次の3つに集約されます。逆にいえば、この3つを潰せば得点源になります。

  • 売価で記入してしまう — 最も多い失点です。売上の行でも払出単価は原価。問題文の売価は売上高の計算にだけ使います。
  • 指定された方法を取り違える — 先入先出法と移動平均法を練習しているうちに、指定を読み飛ばして得意なほうで解いてしまうケース。解き始める前に問題文へ印をつけます。
  • 時間をかけすぎる — 第2問は配点20点に対して分量が多く、深追いすると第3問(35点)の時間を失います。空欄ごとに部分点が積み上がるので、書けるところから埋めて10〜15分で切り上げる判断が有効です。

学習の順序としては、まず先入先出法で3〜4題を解いて記入の型を身体に入れ、そのあと同じ問題を移動平均法で解き直すのが効率的です。同じ取引を2通りに処理すると、方法の違いが数字の差として見えるので定着が早くなります。土台になるのは仕入売上の仕訳を正確に切る力なので、そこが不安なら簿記3級の仕訳から固め直してください。

実務やエクセルで作る商品有高帳

商品有高帳は試験のためだけの帳簿ではありません。実務では在庫管理と決算の両方で使われます。法人税法・所得税法は棚卸資産の評価方法を定めており、会社は選んだ方法を税務署に届け出て継続適用します(届け出がない場合は最終仕入原価法)。期末在庫の評価額はそのまま売上原価を通じて利益と納税額に響くため、根拠となる帳簿を残しておく必要があるわけです。帳簿書類の保存期間など具体的な取り扱いは、国税庁など公式サイトで最新情報を確認してください。

手書きで作る会社は今ではほとんどなく、エクセルか販売管理システムで作成するのが一般的です。エクセルで作る場合は、日付・摘要・受入(数量・単価・金額)・払出(数量・単価・金額)・残高(数量・単価・金額)の列を並べ、金額列を「数量 × 単価」の数式に、残高列を「前行の残高 + 受入 − 払出」の数式にしておくと、入力するのは数量と単価だけで済みます。移動平均法なら残高単価を「残高金額 ÷ 残高数量」で求める列を足せば自動化できます。先入先出法は単価ごとに行が分かれるため、エクセルでの自動化は移動平均法より複雑になります。

会計ソフトや販売管理システムを使えば、仕入売上の入力から商品有高帳が自動生成され、総勘定元帳との整合も自動で取られます。それでも仕組みを理解しておく価値は大きく、システムが出した在庫金額が妥当かどうかを判断できるのは、払出単価の決まり方を知っている人だけです。

まとめ

商品有高帳とは、商品の種類ごとに受入・払出・残高を数量・単価・金額で記録する補助簿です。総勘定元帳には金額しか残らない商品の動きを、数量と単価まで含めて把握し、払い出した商品の原価を確定させるために作ります。要点を振り返ります。

  • すべて原価で記入する売上の行でも払出単価は仕入原価。売価はこの帳簿に一切登場しない。
  • 1行書いたら残高欄を必ず更新する — 「前行の残高 + 受入 − 払出 = 残高」が数量でも金額でも成立する。
  • 先入先出法は古い在庫の単価から順に払い出し、単価の異なる在庫は残高欄で行を分ける。
  • 移動平均法仕入のつど「(残高金額 + 受入金額) ÷ (残高数量 + 受入数量)」で平均単価を出し直し、残高欄は常に1行。
  • 返品は取引の巻き戻し。仕入戻しは払出欄、売上戻りは受入欄に、元の単価のまま記入する。
  • 当社負担の仕入諸掛りは仕入原価に含めて受入単価を作る。売上諸掛りは記入しない。
  • 月末は次月繰越を払出欄に書いて締め切る。受入合計と払出合計の一致が検算になる。
  • 売上原価は摘要が「売上」の払出金額の合計。「期首 + 仕入 − 期末」でも同じ値になる。売上高から引けば売上総利益。
  • 簿記3級では第2問(20点)の頻出テーマ。総平均法は2級の範囲なので3級では2つの方法に絞ってよい。

商品有高帳は、記入ルールを覚えるだけでは点になりません。仕入売上の取引を正しく仕訳に直せて初めて、どの欄にいくらを書くかが決まるからです。逆にいえば、仕訳が瞬時に浮かぶようになれば、商品有高帳は「仕訳の内容を表に写す作業」に変わります。

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