標準原価計算とは — 「あるべき原価」で計算する方法を簡単に
標準原価計算とは、製品1個あたりの原価を「実際にいくらかかったか」ではなく「本来いくらかかるはずか」で計算し、実際にかかった原価との差額を分析する原価計算の方法です。この「本来いくらかかるはずか」という金額を原価標準、原価標準にもとづいて計算した原価を標準原価と呼びます。
簡単に言えば、先に予定表を作っておいて、月末に実績と突き合わせる仕組みです。製品を作る前の段階で「材料は1個につき3kg、1kgあたり200円で買えるはずだから材料費は600円」と決めておきます。月末に実際の金額を集計したら1個あたり651円かかっていた、という結果が出たとします。この51円の開きが原価差異であり、標準原価計算の主役はこの差異のほうです。
実際にかかった金額をそのまま原価とする方法(実際原価計算)では、651円という結果は分かっても、それが高いのか安いのかは判断できません。比べる相手がないからです。標準原価計算は「600円であるべきところ651円だった」という形で結果を出すので、はじめて良し悪しの評価ができるようになります。
標準原価計算は工業簿記、つまり材料を仕入れて自社で製品を作る会社の簿記で使われる技術です。商品を仕入れてそのまま売る会社では仕入価格がそのまま原価になるため、原価計算そのものが必要ありません。この前提については商業簿記とは何かの記事で扱っている商業簿記と工業簿記の違いを押さえておくと理解が早くなります。
実際原価計算との違い — 実際にかかった額で計算しない理由
原価計算には、製品の原価をいくらで計算するかによって実際原価計算と標準原価計算の2つがあります。実際原価計算は当月に実際に発生した材料費・労務費・経費を集計し、それを生産量で割って製品1個あたりの原価を求める方法です。素直な方法ですが、実務でも試験でも標準原価計算が必要とされるのには理由があります。
実際原価計算だと原価が毎月変わってしまう
実際原価計算の最大の弱点は、製品の原価が毎月ふらつくことです。同じ製品を同じ手順で作っていても、材料の相場が上がれば原価は上がり、たまたま作った数が多ければ固定費が薄まって原価は下がります。1月は600円、2月は680円、3月は570円という具合に、製品そのものは何も変わっていないのに原価だけが動きます。
これでは原価が上がった月に「作り方が悪かったのか、相場が悪かったのか、単に作った数が少なかったのか」を区別できません。値決めの根拠にも使いにくく、月次で業績を比べることもできません。標準原価計算は原価標準という固定した物差しを1つ置くことで、この問題を解決します。
2つの方法の違いを整理する
| 比較項目 | 実際原価計算 | 標準原価計算 |
|---|---|---|
| 製品原価の計算 | 実際にかかった金額で計算する | あらかじめ決めた原価標準で計算する |
| 原価が確定する時期 | 実際額が集計できる月末以降 | 完成した時点ですぐ分かる |
| ムダの把握 | 金額の増減しか分からない | 原価差異として原因別に分かる |
| 計算の手間 | 毎月すべて実際額で計算し直す | 掛け算だけで済み、事務が軽い |
誤解しやすいのですが、標準原価計算を採用しても実際にかかった金額を集計しなくてよいわけではありません。実際原価は差異を計算するために必ず集計します。違うのは製品や仕掛品の金額をどちらで記録するかであり、実際額は差異という別の場所に切り出される、という関係です。
財務諸表では最終的に実際原価に戻す
標準原価はあくまで社内の物差しなので、外部に公表する財務諸表をそのまま標準原価で作ることは認められていません。そこで期末には、計算された原価差異を売上原価に加減して実際原価に近い金額へ調整します。不利差異(標準より余計にかかった分)は売上原価に加算し、有利差異は売上原価から減算します。日々は標準原価で軽く回し、決算で実際原価に帳尻を合わせる、という二段構えが標準原価計算の実務上の姿です。
標準原価計算の4つの目的 — なぜわざわざ標準を決めるのか
標準原価計算がなぜ必要なのかは、日本の原価計算のルールブックである原価計算基準に書かれています。原価計算基準は1962年(昭和37年)に大蔵省企業会計審議会が公表したもので、60年以上たった今も原価計算の実務と検定試験の土台になっています。ここで示されている原価計算の目的に沿って、標準原価計算が果たす役割は次の4つに整理できます。
目的1 原価管理 — ムダの原因を数字で突き止める
最も重要な目的が原価管理です。原価計算基準は原価管理を「原価の標準を設定してこれを指示し、原価の実際の発生額を計算記録し、これを標準と比較して、その差異の原因を分析し、これに関する資料を経営管理者に報告し、原価能率を増進する措置を講ずること」と定義しています。つまり原価管理という言葉の定義そのものに、標準を設定して差異を分析することが組み込まれています。
差異を材料の値段が上がったせいなのか、使いすぎたせいなのかまで分解できれば、打つ手が変わります。値段が原因なら購買部門が仕入先を見直し、使いすぎが原因なら製造現場が作業手順を見直す、という具合に、責任の所在と対策が具体的になります。これが実際原価計算にはできないことです。
目的2 記帳の簡略化と迅速化
原価標準が決まっていれば、製品原価は「原価標準×数量」の掛け算だけで求まります。月末に実際額が集計し終わるのを待たなくても、製品が完成した時点で原価が確定するため、月次決算を早く締められます。実際原価計算では材料の実際消費額が確定するまで製品原価が出せませんが、標準原価計算ならその待ち時間がなくなります。
目的3 予算編成と予算統制
来期の予算を組むとき、製品1個あたりいくらかかるかが決まっていなければ、売上計画から製造原価の予算を作れません。原価標準は「これだけ作るならこれだけ費用がかかる」という予算作成の基礎データとしてそのまま使えます。実績が出たあとも、差異分析の枠組みがそのまま予算と実績の比較に転用できます。
目的4 棚卸資産の評価と価格計算
期末に残った仕掛品や製品をいくらで貸借対照表に載せるかを決めるのにも原価標準を使います。標準原価で評価しておけば、期末在庫の金額が担当者の判断や月々の相場でぶれません。また、得意先に提示する見積価格を計算するときの土台としても使われます。
| 目的 | 何が良くなるか |
|---|---|
| 原価管理 | 差異の原因を部門別・要因別に特定でき、改善の打ち手が具体的になる |
| 記帳の簡略化 | 掛け算だけで原価が出るため事務負担が減り、月次決算が早く締まる |
| 予算編成 | 製品1個あたりの原価が固定されるため、製造原価予算を機械的に作れる |
| 棚卸資産の評価 | 期末の仕掛品・製品の評価額が月々の相場に左右されなくなる |
簿記2級の試験では目的そのものを問う理論問題はほとんど出ませんが、これを押さえておくと「なぜ差異を細かく分けるのか」が腑に落ちて、公式の暗記が格段に楽になります。
原価標準の設定 — 標準単価×標準消費量で1個あたりの原価を決める
標準原価計算はすべて原価標準から始まります。原価標準とは製品1個を作るのにかかるべき原価のことで、直接材料費・直接労務費・製造間接費の3つに分けて設定します。そしてどの費目も、決め方は同じ形をしています。
ここが標準原価計算のいちばん大事な骨格です。すべての原価標準は「値段」と「量」の掛け算でできているという一点さえ握っておけば、後の差異分析で公式が3種類あるように見えても、実は同じ形の繰り返しだと分かります。
3つの費目で何を掛け合わせるか
費目ごとに「値段」と「量」に相当するものが入れ替わるだけです。この記事では以下の設例を最後まで使います。製品Xを作っている工場を想定してください。
| 費目 | 標準価格 | 標準消費量 | 原価標準 |
|---|---|---|---|
| 直接材料費 | 標準単価 200円/kg | 標準消費量 3kg | 600円 |
| 直接労務費 | 標準賃率 1,000円/時間 | 標準作業時間 2時間 | 2,000円 |
| 製造間接費 | 標準配賦率 1,500円/時間 | 標準作業時間 2時間 | 3,000円 |
| 合計 | — | — | 5,600円 |
この表そのものを標準原価カードと呼びます。試験では問題文の冒頭に必ずこの形で与えられるので、まずここを読み取り、製品1個あたり5,600円という数字を確保するところから解答が始まります。
直接材料費 — 標準単価と標準消費量
標準単価は購買部門が見積もる、材料1kgあたりの買えるはずの価格です。標準消費量は製品1個を作るのに必要な材料の量で、設計図や過去の実績から決めます。注意したいのは、標準消費量には正常な範囲の減損や仕損(作りそこない)を織り込むという点です。まったくロスが出ない前提の量にしてしまうと、現場が絶対に達成できない目標になり、常に不利差異が出続けて改善の指標として機能しなくなります。
直接労務費 — 標準賃率と標準作業時間
標準賃率は作業員1時間あたりの賃金、標準作業時間は製品1個を作るのにかかるべき時間です。時間の設定には作業研究の結果や過去の平均値が使われます。ここでも、段取り替えや休憩といった避けられない時間をどこまで含めるかが実務上の論点になります。
製造間接費 — 標準配賦率をどう決めるか
製造間接費は電気代や工場建物の減価償却費、間接工の賃金など、どの製品にいくらかかったか直接ひもづけられない費用の集まりです。そのため一度まとめて予算を組み、それを一定の基準で製品に割り振ります。この割り振りの単価が標準配賦率です。
設例では、基準操業度(その工場が正常に稼働したときの月間の直接作業時間)を220時間、製造間接費の月間予算を330,000円としています。330,000円÷220時間で標準配賦率は1,500円/時間です。この予算額は変動費と固定費に分けて管理され、設例では変動費率900円/時間、固定費率600円/時間(固定費予算132,000円)としています。この分解は第8章の製造間接費差異で必ず使うので、標準原価カードと一緒に控えておいてください。
標準原価計算の手順 — 5つのステップで進む
標準原価計算は毎月同じ順序を繰り返します。試験問題も実務もこの流れから外れないので、手順を体で覚えてしまうのがいちばんの近道です。
- 原価標準を設定する — 標準原価カードを作る。期首に一度決めたら期中は原則変えない
- 完成品と仕掛品の標準原価を計算する — 原価標準×生産量。当月の「あるべき原価」を確定させる
- 実際原価を集計する — 実際にかかった材料費・労務費・製造間接費を集計する
- 原価差異を計算し、分析する — 標準原価と実際原価の差を求め、原因別に分解する
- 差異を報告し、対策を打つ — 差異の原因を経営管理者に報告し、期末には差異を売上原価に加減する
ステップ1は期首に一度だけ行い、ステップ2から5を毎月繰り返す形になります。試験で解答が求められるのは主にステップ2とステップ4です。
設例で当月の標準原価を計算する
製品Xについて、当月の生産データが次のとおりだったとします。話を単純にするため、月初と月末の仕掛品はないものとします。
- 当月完成品数量 100個
- 月初仕掛品・月末仕掛品 なし
完成品の標準原価は、原価標準5,600円×100個で560,000円です。費目別に分けると次のようになります。
| 費目 | 計算 | 標準原価 |
|---|---|---|
| 直接材料費 | 600円×100個 | 60,000円 |
| 直接労務費 | 2,000円×100個 | 200,000円 |
| 製造間接費 | 3,000円×100個 | 300,000円 |
| 合計 | 5,600円×100個 | 560,000円 |
ここで併せて押さえておきたいのが、標準消費量も生産量に応じて計算し直すという点です。1個につき材料3kg・作業2時間なので、100個作るなら標準は材料300kg・作業200時間になります。この「標準許容量」が差異分析で実際の消費量と比べる相手になります。
仕掛品がある場合は完成品換算量を使う
月末仕掛品がある場合は、直接材料費と加工費(直接労務費+製造間接費)で数量の数え方が変わります。材料は作業の最初にすべて投入されるのが通常なので、仕掛品も1個は1個として数えます。一方、加工費は作業の進み具合に応じて発生するため、進捗度を掛けた完成品換算量で数えます。月末仕掛品20個が50%まで進んでいるなら、加工費の計算上は10個分として扱う、という考え方です。この換算は総合原価計算と同じ処理なので、標準原価計算に固有の論点ではありません。
実際原価を集計する
当月に実際にかかった原価は次のとおりだったとします。この数字を第6章から第8章で標準と突き合わせていきます。
| 費目 | 実際の内訳 | 実際原価 |
|---|---|---|
| 直接材料費 | 実際単価210円×実際消費量310kg | 65,100円 |
| 直接労務費 | 実際賃率1,020円×実際作業時間205時間 | 209,100円 |
| 製造間接費 | 実際発生額 | 320,000円 |
| 合計 | — | 594,200円 |
標準原価560,000円に対して実際原価594,200円なので、当月の原価差異の総額は34,200円の不利差異です。次章からは、この34,200円がどこで生まれたのかを費目別・要因別に分解していきます。
直接材料費差異の分析 — 価格差異と数量差異に分ける
ここからが標準原価計算の本番、差異分析です。まず直接材料費から見ていきます。標準原価と実際原価の差である直接材料費差異は、必ず次の2つに分解します。
- 価格差異 — 材料を予定より高く(安く)買ったことによる差異。責任は主に購買部門
- 数量差異 — 材料を予定より多く(少なく)使ったことによる差異。責任は主に製造部門
差異の総額を出す
設例では標準原価60,000円に対し実際原価65,100円でした。差異は必ず標準から実際を引く順序で計算します。
マイナスなので5,100円の不利差異です。この計算順序を固定しておけば、符号がそのまま有利・不利を表してくれるので、どちらだったか毎回考え直す必要がなくなります。プラスなら有利差異、マイナスなら不利差異です。
価格差異と数量差異の求め方
この5,100円を、値段が原因の部分と量が原因の部分に分けます。公式は次のとおりです。
設例に当てはめます。100個作るための標準消費量は3kg×100個で300kg、実際は310kg使いました。
- 価格差異 =(200円−210円)×310kg = −3,100円(不利差異)
- 数量差異 =(300kg−310kg)×200円 = −2,000円(不利差異)
合計するとちょうど−5,100円になり、総額と一致します。検算はこの一致で行えるので、答えを出したら必ず足し合わせて確認してください。
掛ける相手を間違えないための考え方
この2つの公式で受験生が最も間違えるのが、価格差異には実際消費量を掛け、数量差異には標準単価を掛けるという組み合わせです。丸暗記するとほぼ確実に取り違えるので、次のボックス図で位置関係を覚えるのが確実です。
図のように、横軸に消費量、縦軸に単価をとった長方形を描きます。内側の青い長方形(標準単価×標準消費量)が標準原価です。上に伸びた横長の帯が価格差異で、実際消費量の幅いっぱいに広がっているため実際消費量を掛けます。右に伸びた縦長の帯が数量差異で、標準単価の高さしかないため標準単価を掛けます。右上の角の部分は価格差異に含めると覚えておけば、掛ける相手を取り違えることはありません。
価格差異は現場の責任ではない
実務上の注意点として、価格差異は製造現場ではコントロールできない差異です。市況が上がれば製造部門がどれだけ丁寧に作っても不利差異が出ます。そのため原価管理の評価では、製造部門には数量差異だけを、購買部門には価格差異を割り当てるのが原則です。差異を細かく分ける意味は、この責任の切り分けにあります。
直接労務費差異の分析 — 賃率差異と作業時間差異
直接労務費の差異分析は、直接材料費とまったく同じ構造です。値段にあたるものが賃率、量にあたるものが作業時間に入れ替わるだけで、公式もボックス図もそのまま使えます。
- 賃率差異 — 1時間あたりの賃金が予定と違ったことによる差異(材料費の価格差異に対応)
- 作業時間差異 — 作業時間が予定と違ったことによる差異(材料費の数量差異に対応)。時間差異とも呼ばれる
公式は材料費と同じ形
ここでも、値段の差異には実際の量を掛け、量の差異には標準の値段を掛けます。第6章のボックス図の縦軸を賃率、横軸を作業時間に読み替えれば、そのまま同じ図で説明がつきます。差異分析の公式は3つの費目で別々に覚えるものではなく、同じ形が3回出てくるだけという理解が、この論点を軽くする最大のコツです。
設例で計算する
製品X 100個の標準作業時間は2時間×100個で200時間、実際は205時間かかりました。標準賃率は1,000円、実際賃率は1,020円です。
- 賃率差異 =(1,000円−1,020円)×205時間 = −4,100円(不利差異)
- 作業時間差異 =(200時間−205時間)×1,000円 = −5,000円(不利差異)
合計は−9,100円です。総額でも確かめておくと、標準原価200,000円−実際原価209,100円で−9,100円となり、一致します。
| 差異 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 賃率差異 | (1,000−1,020)×205時間 | −4,100円(不利) |
| 作業時間差異 | (200−205)×1,000円 | −5,000円(不利) |
| 直接労務費差異 | 200,000−209,100 | −9,100円(不利) |
作業時間差異が示すもの
作業時間差異が不利になったということは、100個作るのに200時間で済むはずが205時間かかった、つまり5時間分ムダに働いた状態を意味します。原因としては、作業者の習熟不足、段取り替えの多発、機械の故障による手待ち、不良品の作り直しなどが考えられます。金額そのものより「何時間ぶんの遅れか」で読むと、現場の改善につながる情報になります。
賃率差異が出る典型的な原因
賃率差異は、想定より賃率の高い熟練工を投入した、残業が増えて割増賃金が発生した、といった理由で生じます。注意したいのは、賃率の高い熟練工を投入すれば賃率差異は不利になる一方で、作業が速く進むため作業時間差異は有利になりうる、という関係です。2つの差異は独立しておらず、片方だけを見て良し悪しを判断すると誤った結論になります。差異は必ずセットで読むのが原価管理の基本です。
製造間接費差異の分析 — 予算差異・能率差異・操業度差異
製造間接費の差異分析は、標準原価計算のなかで最も難しい論点です。難しくなる理由は1つで、製造間接費には固定費が含まれるからです。材料費や労務費は作れば作るだけ増える変動費ですが、工場の家賃や機械の減価償却費は、何個作ろうと毎月同じ額が発生します。この固定費の存在が、差異をもう1つ増やします。
3つの差異が意味するもの
- 予算差異 — 予算で認められた金額に対して実際にいくら使いすぎた(節約できた)かの差異
- 能率差異 — 作業が予定より非効率だったことによる差異。時間のムダを金額に換算したもの
- 操業度差異 — 工場の生産設備を予定どおり使い切れなかったことによる差異。固定費の配賦もれ
予算差異と能率差異は現場の努力で減らせますが、操業度差異は受注量が少なければ現場が何をしても発生します。この点でも性質が異なる差異です。
設例の前提を整理する
第4章で設定した条件をもう一度並べます。この4つの数字がそろえば、3つの差異はすべて計算できます。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 標準配賦率 | 1,500円/時間(変動費率900円+固定費率600円) |
| 基準操業度 | 220時間(固定費予算132,000円) |
| 標準作業時間 | 200時間(2時間×100個) |
| 実際作業時間 / 実際発生額 | 205時間 / 320,000円 |
まず製造間接費差異の総額を求めます。標準配賦額は1,500円×200時間で300,000円、実際発生額は320,000円なので、差異は300,000−320,000で−20,000円の不利差異です。これを3つに分解します。
予算差異 — 予算許容額と実際発生額を比べる
予算許容額とは、実際に働いた時間を前提にすれば、いくらまで使ってよかったかという金額です。変動費は働いた時間に比例するので実際作業時間で計算し、固定費は時間と無関係なので予算額をそのまま足します。
- 予算許容額 = 900円×205時間+132,000円 = 184,500円+132,000円 = 316,500円
- 予算差異 = 316,500円−320,000円 = −3,500円(不利差異)
205時間働いたなら316,500円までは許されたのに、実際には320,000円使ってしまった、という読み方になります。電気代の高騰や間接材料の使いすぎなど、金額そのものの管理の失敗を表す差異です。
能率差異 — ムダな時間を金額に換算する
- 能率差異 = 1,500円×(200時間−205時間)= −7,500円(不利差異)
第7章で見た5時間の作業の遅れが、製造間接費の側でも1時間1,500円で評価されて出てきています。同じ5時間のムダが、直接労務費では5,000円、製造間接費では7,500円として二重に効いているわけです。作業時間の短縮が原価に与える影響が大きいのは、このためです。
なお能率差異には、変動費部分だけで計算する方法(変動費能率差異)と、固定費部分も含めて計算する方法の2通りがあります。上の計算は標準配賦率1,500円をそのまま使っているので固定費も含めた方法です。簿記2級ではこちらが標準的ですが、問題文で「能率差異は変動費のみから計算する」と指示されることもあるため、必ず指示を確認してください。
操業度差異 — 設備を使い切れなかった分
- 操業度差異 = 600円×(205時間−220時間)= −9,000円(不利差異)
この工場は月220時間動く前提で固定費132,000円を計画していたのに、実際には205時間しか動きませんでした。15時間ぶん、固定費を製品に配賦しきれなかった金額が9,000円というわけです。工場の設備を遊ばせた損失、と理解すると意味がつかめます。他の差異と違って、操業度差異は現場の作業のうまさとは無関係で、受注量そのものが少ないときに発生します。
3つを合計して検算する
| 差異 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 予算差異 | 316,500−320,000 | −3,500円(不利) |
| 能率差異 | 1,500×(200−205) | −7,500円(不利) |
| 操業度差異 | 600×(205−220) | −9,000円(不利) |
| 製造間接費差異 | 300,000−320,000 | −20,000円(不利) |
3つの合計は−20,000円となり、総額と一致しました。製造間接費の差異分析では、この検算を必ず行ってください。3つの公式のどれか1つで時間の取り違えがあると合計が合わなくなるので、その場で誤りに気づけます。
当月の差異をすべてまとめる
ここまでで、第5章で出した34,200円の不利差異が7つの差異に分解できました。
| 費目 | 差異 | 金額 |
|---|---|---|
| 直接材料費 | 価格差異 | −3,100円 |
| 直接材料費 | 数量差異 | −2,000円 |
| 直接労務費 | 賃率差異 | −4,100円 |
| 直接労務費 | 作業時間差異 | −5,000円 |
| 製造間接費 | 予算差異 | −3,500円 |
| 製造間接費 | 能率差異 | −7,500円 |
| 製造間接費 | 操業度差異 | −9,000円 |
| 合計 | 原価差異(総額) | −34,200円 |
簿記2級で問われる差異はこの7種類がすべてです。34,200円という総額だけでは何も分かりませんが、こうして分解すると「最も大きいのは操業度差異9,000円、つまり工場が予定どおり動いていない」ことが一目で分かります。これが標準原価計算のもたらす情報です。
勘定記入と仕訳 — パーシャルプランとシングルプラン
差異の金額が計算できたら、それを帳簿に記録します。標準原価計算では、仕掛品勘定に実際原価と標準原価のどちらで記入するかによって、記帳方法が2つに分かれます。それがパーシャルプランとシングルプランです。違いは1点、原価差異がどの勘定に現れるかだけです。
パーシャルプラン — 仕掛品の借方は実際原価
パーシャルプランでは、仕掛品勘定の借方に実際原価をそのまま振り替え、貸方(完成品)を標準原価で出します。借方が594,200円、貸方が560,000円なので、仕掛品勘定に34,200円の残高が残ります。これが原価差異です。差異が仕掛品勘定という1か所に集まるため、記帳が簡単で実務でも広く使われています。設例の仕訳は次のとおりです。
- 材料の消費(実際額)
- (借)仕掛品 65,100 /(貸)材料 65,100
- 賃金の消費(実際額)
- (借)仕掛品 209,100 /(貸)賃金 209,100
- 製造間接費の配賦(実際額)
- (借)仕掛品 320,000 /(貸)製造間接費 320,000
- 製品の完成(標準原価)
- (借)製品 560,000 /(貸)仕掛品 560,000
- 原価差異の把握
- (借)原価差異 34,200 /(貸)仕掛品 34,200
最後の仕訳で仕掛品勘定の残高がゼロになり、差異が原価差異勘定へ移ります。実際の試験では原価差異勘定をさらに価格差異・数量差異といった科目に分けて振り替えさせる出題もありますが、考え方は同じです。
シングルプラン — 仕掛品は借方も貸方も標準原価
シングルプランでは、仕掛品勘定の借方も標準原価で記入します。材料は実際に65,100円消費しているのに仕掛品には標準の60,000円しか振り替えないため、差額の5,100円は材料勘定の側で差異として認識されます。仕訳は次のようになります。
- 材料の消費(標準原価で振替)
- (借)仕掛品 60,000 / 価格差異 3,100 / 数量差異 2,000 /(貸)材料 65,100
- 賃金の消費(標準原価で振替)
- (借)仕掛品 200,000 / 賃率差異 4,100 / 作業時間差異 5,000 /(貸)賃金 209,100
- 製造間接費の配賦(標準原価で振替)
- (借)仕掛品 300,000 / 予算差異 3,500 / 能率差異 7,500 / 操業度差異 9,000 /(貸)製造間接費 320,000
- 製品の完成
- (借)製品 560,000 /(貸)仕掛品 560,000(パーシャルプランと同じ)
シングルプランでは仕掛品勘定に差異が入り込まないため、仕掛品の残高が常に標準原価で保たれます。原価管理の観点では、材料の差異は材料勘定、労務費の差異は賃金勘定というように発生源で差異が見えるほうが望ましく、理論的にはシングルプランのほうが優れているとされます。ただし記帳の手間は増えます。
2つの見分け方と覚え方
| 比較項目 | パーシャルプラン | シングルプラン |
|---|---|---|
| 仕掛品の借方 | 実際原価 | 標準原価 |
| 仕掛品の貸方 | 標準原価 | 標準原価 |
| 差異が出る勘定 | 仕掛品勘定 | 材料・賃金・製造間接費の各勘定 |
| 記帳の手間 | 少ない(実務で一般的) | 多い(理論的には優位) |
名前が紛らわしいので、シングル(単一)=仕掛品が借方も貸方も標準原価の一本(単一)で揃っていると結びつけると覚えやすくなります。パーシャル(部分的)は、標準原価が貸方だけの部分的な適用、という理解です。試験で頻出なのはパーシャルプランのほうですが、どちらを問われても「差異がどの勘定に出るか」から逆算すれば仕訳は書けます。
期末には差異を売上原価に振り替える
期中に把握した原価差異は、期末に売上原価へ振り替えて処理します。設例のように不利差異であれば売上原価に加算します。
- 不利差異の振替(期末)
- (借)売上原価 34,200 /(貸)原価差異 34,200
これによって、標準原価で作ってきた損益計算書が実際原価にもとづく数値へ修正されます。有利差異であれば逆の仕訳になり、売上原価が減ります。なお差異の金額が著しく大きい場合は売上原価だけでなく期末の製品・仕掛品にも配分するという例外処理がありますが、簿記2級の出題範囲では売上原価に全額振り替える処理を押さえておけば十分です。
簿記2級の標準原価計算 — どの大問で何点出るか
標準原価計算は日商簿記2級の工業簿記の論点であり、簿記3級には登場しません。3級は商業簿記のみが範囲で、工業簿記そのものが試験に出ないためです。2級の全体像は日商簿記2級の完全ガイドにまとめていますが、ここでは標準原価計算に絞って、試験でどう問われるかを見ていきます。
出題される大問と配点
簿記2級は第1問から第5問までの大問5題、試験時間90分、100点満点中70点で合格です。標準原価計算が出るのは工業簿記の第4問と第5問で、とくに第5問が主戦場になります。
第5問の12点がまるごと標準原価計算になる回があり、その場合はこの論点だけで合格点70点の6分の1を占めます。加えて第4問で標準原価計算の仕訳や勘定記入が問われることもあるため、実際の影響はもう少し大きくなります。
工業簿記は得点源になる
工業簿記は第4問と第5問あわせて40点で、商業簿記の60点より配点は小さいものの、出題パターンが安定していて対策の費用対効果が高いという特徴があります。商業簿記は連結会計や税効果会計など重量級の論点が回替わりで出るのに対し、工業簿記は解法の型が決まっており、一度固めれば安定して得点できます。合格戦略としては工業簿記40点をほぼ取り切り、商業簿記で30点台を拾う組み立てが最も現実的です。学習時間の配分については簿記2級の勉強時間の記事も参考にしてください。
典型的な出題パターン
標準原価計算の出題は、次のいずれかの形に収まることがほとんどです。
- 差異分析型 — 標準原価カードと実際発生額が与えられ、価格差異・数量差異などを計算させる。最頻出
- 勘定記入型 — パーシャルプランまたはシングルプランで、仕掛品勘定などを完成させる
- 仕訳型 — 第4問で、材料の消費や原価差異の振替を仕訳させる
- 完成品原価の計算型 — 月末仕掛品がある状態で、完成品と月末仕掛品の標準原価を計算させる
いずれも問題文の冒頭に標準原価カードが与えられる点は共通です。まずカードから原価標準を読み取り、生産量を掛けて標準原価を出し、実際発生額と比べる、という順序は変わりません。
取りこぼしを防ぐ3つの注意点
- 標準作業時間は生産量に応じて計算し直す — 標準原価カードの「2時間」は1個あたりの数字です。100個作ったなら200時間が比較対象になります。カードの数字をそのまま実際作業時間と比べてしまうのが最も多いミスです
- 能率差異の計算方法を問題文で確認する — 固定費を含めるか変動費のみかで金額が変わります。指示があればそれに従います
- 符号と有利・不利を必ず書く — 解答欄に有利・不利の記入が求められることが多く、金額が合っていても符号が逆だと不正解になります。「標準−実際」の順で計算する癖をつけておけば迷いません
学習の進め方
標準原価計算は理解より反復が効く論点です。差異分析の公式は3費目で同じ形の繰り返しなので、ボックス図を1つ描けるようにしたうえで、設例レベルの問題を10問ほど手を動かして解けば形が定着します。その際、金額を出したら必ず合計して総差異と一致するか検算する習慣をつけてください。この検算があるおかげで、標準原価計算は自分の答えの正誤をその場で判定できる、珍しく安全な論点になっています。
まとめ — 標準原価計算は「あるべき原価」との比較で成り立つ
標準原価計算とは何かを簡単に振り返ります。製品原価を実際にかかった額ではなく、あらかじめ決めた原価標準で計算し、実際原価との差である原価差異を分析する方法でした。要点は次のとおりです。
- 原価標準はすべて「価格×消費量」 — 材料費は単価×kg、労務費は賃率×時間、製造間接費は配賦率×時間。形は3つとも同じ
- 差異は「標準−実際」で計算する — プラスなら有利差異、マイナスなら不利差異。順序を固定すれば符号がそのまま答えになる
- 価格系の差異には実際量を、数量系の差異には標準価格を掛ける — ボックス図で位置関係を覚えれば取り違えない
- 製造間接費だけ差異が3つ — 固定費を含むため、予算差異・能率差異に加えて操業度差異が発生する
- 記帳はパーシャルプランとシングルプランの2通り — 差異が仕掛品勘定に出るか、材料・賃金などの原価要素勘定に出るかの違い
- 簿記2級の工業簿記、主に第5問(12点)で出題される — 工業簿記は第4問と第5問で40点。パターンが安定しており得点源にしやすい
設例で見たように、34,200円という差異の総額だけでは何も分かりませんが、7つに分解すると最も大きいのは操業度差異の9,000円だと分かりました。この「原因まで分かる」ところが、実際原価計算にはない標準原価計算の価値です。原価計算基準が原価管理の定義そのものに標準の設定と差異分析を書き込んでいるのは、そのためです。
差異分析の公式は覚えるものではなく、手を動かすうちに図の位置関係として身につくものです。学猿の仕訳ドリルでは、標準原価計算を含む工業簿記の仕訳を1問ずつ解きながら、間違えた問題を自動で復習に回す形で練習できます。まずは第9章で扱ったパーシャルプランの仕訳から、実際に手を動かして確かめてみてください。

