償却原価法とは — 満期保有目的債券の期末評価に使う方法
償却原価法とは、債券を額面金額と異なる価額で取得したときに、その差額を取得日から償還日までの期間にわたって少しずつ帳簿価額に加減していき、償還日にちょうど額面金額と一致させる評価の方法です。満期保有目的債券の期末評価で使うのが代表的で、簿記の学習では2級の商業簿記で最初に登場します。
言葉を分解すると理解しやすくなります。「償却」は差額を期間に配分して消していくこと、「原価」は時価ではなく取得した金額を出発点にすることを指します。つまり償却原価法は、時価に置き換える評価ではなく、取得原価を出発点にして、償還日の額面金額へ向かって帳簿価額を動かしていく評価だと言えます。
満期保有目的債券とはどういう区分か
有価証券は、保有する目的によって区分され、区分ごとに期末の評価方法が決まります。このうち満期保有目的債券は、社債や国債などの債券を「満期まで持ち続けて、利息と元本を受け取る」つもりで保有しているものを指します。途中で売って値上がり益を狙う意図がないことが条件で、実際に満期まで保有する意思と能力があることが前提になります。
区分と評価方法の対応は次の図のとおりです。満期保有目的債券だけが、取得原価を基礎としつつ償却原価法で帳簿価額を動かすという、他と違った扱いになります。
額面金額と取得原価がずれる理由
債券は額面100円につき何円という価格で売買され、発行時点の市場金利と債券に付いている利率(クーポンレート)が一致しないため、額面金額どおりの価額で買えるとは限りません。市場金利より低い利率の債券は、そのままでは買い手が付かないので、額面より安い価額で発行・売買されます。逆に市場金利より高い利率の債券は、額面より高い価額が付きます。
このずれは、値上がり・値下がりの期待ではなく、受け取る利息が市場水準から見て少ない(多い)ことを価格で埋め合わせたものです。この性質を金利調整差額と呼びます。償却原価法は、この金利調整差額を保有期間の利息の一部として各期に配分するための仕組みです。
評価の結果、貸借対照表にはいくらで載るか
償却原価法を適用した満期保有目的債券の貸借対照表価額は、取得原価に今期までの償却額を加減した「償却原価」になります。取得原価が額面より低ければ帳簿価額は毎期増えていき、高ければ毎期減っていき、償還日には必ず額面金額に一致します。満期には額面金額で現金が戻ってくるため、償還時に売却損益のような差額が出ない点が、この評価方法のわかりやすい特徴です。
表示区分は、償還日が決算日の翌日から1年以内に到来するものが流動資産の「有価証券」、1年を超えるものが固定資産(投資その他の資産)の「投資有価証券」です。同じ満期保有目的債券でも、償還までの残り期間によって表示場所が変わるため、決算のたびに確認が必要になります。
なぜ償却原価法を適用するのか — 時価評価しない理由
満期保有目的債券を時価評価しないのはなぜか、そして取得原価のまま放置せずになぜ償却原価法で帳簿価額を動かすのか。この2つは別々の問いで、答えも別です。順に整理します。
時価評価しないのは、時価が投資の成果を表さないから
時価評価が意味を持つのは、いつでも売って時価で現金化するつもりの投資です。売買目的有価証券がまさにそれで、期末の時価がそのまま投資の成果になるため、時価評価して評価差額を当期の損益にします。
一方、満期保有目的債券は満期まで持ち切る前提です。途中で時価が上下しても売らないのだから、その値動きは実現しません。最後に受け取るのは額面金額と約束された利息であり、金額は取得した時点でほぼ確定しています。実現しない値動きを損益にしてしまうと、かえって企業の実態を表さないため、満期保有目的債券は時価評価の対象から外され、取得原価または償却原価で評価されます。決算で時価が資料に与えられていても、満期保有目的債券については使わない、というのが原則です。
取得原価のままにしないのは、差額が利息の一部だから
では取得原価のまま何もしなくてよいかというと、そうはなりません。額面100,000円の社債を96,000円で買えたなら、満期に4,000円多く戻ってきます。この4,000円は、その債券の利率が市場金利より低いことの埋め合わせとして最初から織り込まれていた金額であり、経済的な性格は利息と変わりません。
利息であるなら、償還した年に一括で儲けが出たと考えるのは不自然です。保有していた各期に少しずつ帰属させるべきものになります。これを期間配分するのが償却原価法で、配分された金額は有価証券利息として、クーポン利息と同じ勘定に計上されます。費用や収益を発生した期間に割り当てるという考え方は、未収収益などの経過勘定と共通する発想です。
金利調整差額と認められない差額には適用しない
償却原価法を適用するのは、額面金額と取得価額の差額が金利の調整と認められる場合に限られます。同じ「額面より安く買えた」でも、理由が発行会社の信用不安による値崩れであれば、それは利息の調整ではなく信用リスクを反映した価格です。この場合は償却原価法を適用せず、取得原価のまま評価し、必要に応じて後述の減損処理を検討します。
試験問題では「額面金額と取得価額との差額は金利の調整と認められる」といった但し書きが問題文に添えられるのが通例です。この一文があるかどうかが、償却原価法を使うかどうかの合図になります。
3つの評価方法を並べて比べる
| 評価 | 期末の帳簿価額 | 差額の行き先 |
|---|---|---|
| 時価評価 | 期末の時価 | 損益または純資産 |
| 償却原価法 | 取得原価±償却額 | 有価証券利息(収益) |
| 取得原価 | 取得したときの金額のまま | なし |
償却原価法は時価評価と取得原価評価の中間ではなく、取得原価評価の一種で、利息の期間配分だけを加えたものと理解しておくと、後の論点で迷いません。
計算方法と計算式 — 定額法の公式
償却原価法の計算方法には定額法と利息法の2つがあり、実務でも試験でもまず使うのが定額法です。定額法は、額面金額と取得原価の差額を償還までの期間で均等に割るだけなので、公式は1本しかありません。
定額法の計算式
1年あたりの償却額を求める計算式は次のとおりです。
この公式で求めた金額を、毎期の決算で帳簿価額に加算(取得原価が額面より低い場合)または減算(取得原価が額面より高い場合)します。減価償却の減価償却で使う定額法と同じく、期間で均等に割るという発想は共通です。違うのは、割った金額が費用ではなく有価証券利息という収益になる(または収益のマイナスになる)点です。
数値例で計算方法を確認する
×1年4月1日に、額面金額100,000円の社債を96,000円で取得したとします。償還日は×4年3月31日、決算日は毎年3月31日、額面金額と取得価額の差額は金利の調整と認められるものとします。
額面金額と取得原価の差額は100,000円 − 96,000円 = 4,000円、取得日から償還日までは3年間なので、計算式に当てはめると1年あたりの償却額は4,000円 ÷ 3年 = 1,333.33…円となります。試験では割り切れる数字が与えられるのが普通ですが、割り切れない場合は問題文の指示(円未満四捨五入など)に従い、最終年度で端数を調整して償還日にちょうど額面金額100,000円になるようにします。
取得原価が額面金額を上回るケース、たとえば額面100,000円の社債を103,000円で取得した場合は、差額3,000円を期間で割った金額を毎期減算していきます。この場合の償却額は有価証券利息の借方に計上され、受け取ったクーポン利息から差し引かれる形になります。取得原価が額面より高いか低いかで加減の向きが逆になる点は、間違えやすいので毎回確認してください。
帳簿価額が償還日に向かって階段状に額面金額へ近づいていく様子を図にすると、次のようになります。
公式を使うときに気をつける2点
1点目は、分子を額面金額 − 取得原価で固定して考えることです。取得原価が高いケースで符号を入れ替えて覚え直すと混乱するため、計算はいつも同じ順で行い、マイナスになったら帳簿価額を減らす、と機械的に処理します。
2点目は、分母に入れるのが取得日から償還日までの残りの期間だという点です。発行日から償還日までの期間ではありません。発行から2年経った債券を買ったなら、分母は残りの期間になります。既に保有している債券について2年目以降の償却額を求めるときも、帳簿価額と残存期間で計算し直せば同じ答えになります。
月割計算 — 期中に取得したときの償却額
債券を期首に取得できるとは限りません。期中に取得した年度は、保有していたのが1年に満たないため、1年分の償却額をそのまま計上すると計上しすぎになります。そこで保有した月数に応じて按分する月割計算を行います。日商簿記の問題では、この月割を落として不正解になる受験者が非常に多い論点です。
月割の計算式
年数で割ってから月数を掛ける形でも、最初から月数で割る形でも答えは同じです。分母を月数に統一しておくと、期中取得と期中償還のどちらにも同じ式で対応できるので扱いやすくなります。
数値例 — 12月1日に取得した場合
決算日が3月31日の会社が、×1年12月1日に額面金額100,000円の社債を96,400円で取得し、償還日は×4年11月30日だとします。差額は3,600円、取得日から償還日までは36か月なので、1か月あたりの償却額は3,600円 ÷ 36か月 = 100円です。
取得した×1年12月1日から決算日の×2年3月31日までは4か月なので、当期の償却額は100円 × 4か月 = 400円になります。翌期以降は12か月分の1,200円ずつ、最後の×4年度は4月1日から償還日の11月30日までの8か月分で800円です。合計すると400 + 1,200 + 1,200 + 800 = 3,600円となり、差額とぴったり一致します。各期の償却額を合計して差額と一致するかを確かめるのが、月割計算の検算方法です。
| 期間 | 保有月数 | 償却額 |
|---|---|---|
| ×1年12月〜×2年3月 | 4か月 | 400円 |
| ×2年4月〜×3年3月 | 12か月 | 1,200円 |
| ×3年4月〜×4年3月 | 12か月 | 1,200円 |
| ×4年4月〜×4年11月 | 8か月 | 800円 |
月割で間違えやすいところ
まず、取得日を含む月を数えるかどうかです。簿記の問題では月初取得・月末償還のように区切りのよい日付が与えられるのが通例で、12月1日取得なら12月から数えます。日付が半端な場合は問題文の指示に従いますが、指示がなければ月単位で数えるのが一般的です。
次に、利息の月割と償却額の月割を混同しないことです。クーポン利息は利払日ごとに実際に受け取る現金があり、決算日をまたぐ分は未収の利息として別途処理します。一方、償却額は現金の受け渡しがない決算整理での計上です。同じ「月割」でも対象が別なので、それぞれ独立に計算します。実際の仕訳での扱いは次の章で確認します。
仕訳のやり方 — 取得・利払日・決算・償還の4場面
満期保有目的債券の仕訳が登場する場面は、取得したとき、利払日に利息を受け取ったとき、決算のとき、償還されたときの4つだけです。「仕分け」と表記されることもありますが、簿記の用語としては仕訳が正しい表記です。4場面それぞれで動く勘定を先に押さえておくと、問題文のどの場面を問われているかがすぐ判断できます。
取得したときの仕訳
取得したときは、実際に支払った金額(取得原価)で満期保有目的債券を計上します。額面金額ではありません。額面100,000円の社債を96,000円で取得し、代金を現金で支払った場合は次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 満期保有目的債券 | 96,000 | 現金 | 96,000 |
買入手数料などの付随費用がある場合は、取得原価に含めます。この場合は手数料を含めた金額が償却原価法の出発点になるため、償却額の計算でも手数料込みの金額を使います。仕訳の考え方そのものは簿記3級の仕訳と同じで、資産が増えたら借方に書くという原則から外れません。
利払日の仕訳 — 利率とクーポン利息
債券には額面金額に対する利率(クーポンレート)が付いており、利払日ごとに利息を受け取ります。年利率1.5%、利払日が毎年3月末と9月末の年2回であれば、1回あたりの利息は100,000円 × 1.5% × 6か月/12か月 = 750円です。クーポン利息は額面金額に利率を掛けて計算し、取得原価には掛けません。この点は償却額の計算と混ざりやすいので注意してください。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 750 | 有価証券利息 | 750 |
利払日が決算日と一致していない場合は、直前の利払日から決算日までの利息が未収になります。この分は決算整理で未収有価証券利息(または未収収益)として計上し、翌期首に再振替します。
決算の仕訳 — 償却原価法の適用
決算では、その期に配分すべき償却額を満期保有目的債券の帳簿価額に加算し、相手勘定を有価証券利息とします。1年あたり1,333円の場合の仕訳は次のとおりです。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 満期保有目的債券 | 1,333 | 有価証券利息 | 1,333 |
現金は1円も動きませんが、収益は1,333円増えます。取得原価が額面より高い場合は借方と貸方が逆になり、有価証券利息を借方に、満期保有目的債券を貸方に計上して帳簿価額を減らします。決算整理で処理する項目のひとつとして、貸倒引当金や減価償却と並んで問われます。
償還されたときの仕訳
償還日には額面金額の現金を受け取ります。前期末までの償却と当期分の償却を済ませていれば帳簿価額は額面金額に一致しているため、差額は生じません。
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 100,000 | 満期保有目的債券 | 100,000 |
問題によっては、償還日の仕訳の中で最終年度の償却を同時に処理させることもあります。その場合は先に償却の仕訳を行って帳簿価額を額面金額に合わせてから、償還の仕訳を書けば確実です。
2年目以降の処理 — 償還までの帳簿価額の推移
償却原価法でつまずきやすいのが2年目です。1年目は取得原価が資料に書いてあるので迷いませんが、2年目以降は帳簿価額が前期末の償却によって動いており、問題文には取得原価ではなく前期末の帳簿価額しか書かれていないことがあります。ここで計算の起点を取り違えると、以降の金額がすべてずれます。
2年目の償却額はどう求めるか
方法は2つあり、どちらでも同じ答えになります。1つは取得原価と全期間から求めた1年あたりの償却額をそのまま使う方法。もう1つは、前期末の帳簿価額と残存期間から計算し直す方法です。
額面100,000円・取得原価96,000円・3年償還の例で確認します。1年目の決算後の帳簿価額は96,000 + 1,333 = 97,333円、残存期間は2年です。ここから計算し直すと(100,000 − 97,333) ÷ 2年 = 1,333.5円となり、端数処理の分だけ差は出ますが、実質的に同じ金額になります。期中取得で1年目が月割だった場合は、残存期間から計算し直す方法のほうが安全です。1年目に月割で少なめに償却しているぶん、残りを残存期間で割り直すことで最終年度の帳簿価額が額面金額に一致します。
3年間の推移を表で確認する
| 時点 | 償却額 | 帳簿価額 |
|---|---|---|
| 取得時 | — | 96,000 |
| 1年目末 | +1,333 | 97,333 |
| 2年目末 | +1,333 | 98,666 |
| 3年目末(償還) | +1,334 | 100,000 |
端数が出る場合は最終年度で調整し、償還日の帳簿価額を必ず額面金額に一致させます。上の表では1,334円と1円だけ多く償却していますが、これが正しい処理です。3年間の償却額の合計4,000円は、取得時に確定していた「額面と取得価額の差」そのものであり、これを3期に分けて有価証券利息として計上したことになります。
2年目以降に見落としやすい点
1つ目は、勘定科目が毎期同じであることです。1年目だけ特別な処理があるわけではなく、2年目も3年目も「満期保有目的債券/有価証券利息」の仕訳を繰り返すだけです。2つ目は、償還日が翌期に到来する年度では、貸借対照表の表示が固定資産の投資有価証券から流動資産の有価証券へ移る点です。金額の計算に影響はありませんが、財務諸表を作成させる問題では表示区分まで問われます。
3つ目は、償却額を有価証券利息に含めるため、損益計算書の有価証券利息がクーポン利息と償却額の合計になることです。上の例で年利率1.5%の債券であれば、1年間の有価証券利息は1,500円 + 1,333円 = 2,833円になります。総勘定元帳や損益計算書の金額を答えさせる問題では、この合算を忘れないようにします。
利息法とは — 定額法との違いと原則・容認の関係
償却原価法の計算方法は定額法だけではありません。会計基準上の原則は利息法であり、定額法は継続して適用することを条件に認められる簡便法という位置づけです。学習の順序としては定額法が先ですが、原則と容認が逆であることは押さえておく価値があります。
利息法の考え方
利息法は、取得価額に対して毎期一定の利回りが得られるように利息を配分する方法です。この一定の利回りを実効利子率(実効利率)といい、その債券に投資した結果として実際に得られる利回りを指します。額面より安く買えた債券は、クーポンの利率より実効利子率のほうが高くなります。
計算は次の順で行います。まず、期首の帳簿価額に実効利子率を掛けて、その期に認識すべき利息の総額を求めます。次に、クーポンとして実際に受け取る利息(額面金額 × 券面利率)を差し引きます。この差額がその期の償却額です。
帳簿価額が毎期増えていくため、それに実効利子率を掛けた利息の総額も毎期増えます。その結果、償却額は年を追うごとに大きくなるのが利息法の特徴です。毎期同額になる定額法とはここが決定的に違います。
定額法と利息法の違いを整理する
| 項目 | 定額法 | 利息法 |
|---|---|---|
| 位置づけ | 継続適用を条件に容認 | 原則 |
| 計算の基礎 | 差額を期間で均等配分 | 期首帳簿価額×実効利子率 |
| 各期の償却額 | 毎期同額 | 年々増加する |
| 主な出題級 | 簿記2級 | 簿記1級・会計士 |
どちらを採用しても、償還までの償却額の合計は額面金額と取得原価の差額で一致します。違うのは各期への配分の仕方だけです。そのため、償還日の帳簿価額はどちらの方法でも額面金額になります。
どちらを使うかの判断
実務では、計算の簡便さから定額法を採用する会社が多く見られます。ただし、いったん採用した方法は継続して適用する必要があり、期ごとに有利なほうへ変更することはできません。金額的な重要性が乏しい場合に簡便法が許容されるという考え方であり、影響が大きい場合には原則である利息法が求められます。
試験対策としては、簿記2級までなら定額法だけを確実に押さえれば十分です。問題文に実効利子率が与えられていたら利息法、与えられていなければ定額法、という見分け方が実用的です。上位級に進むと利息法の計算表を作成させる問題が出るため、そこで改めて学ぶことになります。
簿記2級での出題のされ方と解く手順
満期保有目的債券と償却原価法は、日商簿記2級の商業簿記で扱う論点です。3級では有価証券そのものを深く扱わないため、2級で初めて出会う受験者がほとんどです。出題される形はおおむね決まっており、パターンを知っておくと得点源にできます。
2級で問われる3つの形
- 個別の仕訳問題
- 取得時・利払日・決算時・償還時のいずれか1場面を指定し、仕訳を書かせる形。金額の計算は単純で、月割を正しく行えるかが分かれ目になります。
- 決算整理の一部として
- 精算表や財務諸表の作成問題の中で、決算整理事項のひとつとして出題される形。償却額を有価証券利息に加える処理と、貸借対照表の表示区分の両方を問われます。
- 勘定記入
- 満期保有目的債券勘定や有価証券利息勘定への記入を求める形。クーポン利息と償却額の両方が同じ勘定に入るため、記入順と摘要の書き方が問われます。
解く手順を固定する
資料を読む順番を毎回同じにしておくと、処理漏れが減ります。おすすめは次の順です。
- 額面金額・取得原価・取得日・償還日・券面利率・利払日を書き出す
- 「差額は金利の調整と認められる」という但し書きがあるか確認する
- 額面金額 − 取得原価を計算し、加算か減算かを決める
- 償還までの月数で割り、当期に保有した月数を掛ける
- クーポン利息を別に計算し、未収分があれば決算整理に加える
特に2番目の確認を習慣にしておくと、償却原価法を適用しない出題(金利の調整と認められない場合や、そもそも売買目的有価証券だった場合)に引っかかりません。
2級の受験者がよく落とす3点
1点目は、期中取得の月割を忘れて1年分を計上してしまうことです。2点目は、クーポン利息を取得原価に利率を掛けて計算してしまうことで、正しくは額面金額に券面利率を掛けます。3点目は、決算で時価が資料に与えられているとつい時価評価してしまうことです。満期保有目的債券に時価評価は行いません。時価はその他有価証券や売買目的有価証券のための資料であることが多く、引っかけとして混ぜられていることもあります。
この論点は、覚える公式が1本しかない代わりに、月割と勘定科目で差がつきます。仕訳を数多く手を動かして解くのが最短で、簿記2級全体の学習計画の中でも、有価証券は早めに固めておくと後の連結会計や税効果会計の理解が楽になります。
減損処理と外貨建債券 — 実務で出てくる応用論点
ここまでは、債券が予定どおり満期を迎える前提で説明してきました。実際には、発行会社の信用が悪化して価値が大きく下がることもあれば、外貨建の債券で為替が動くこともあります。どちらも償却原価法と組み合わせて処理する必要がある論点です。
減損処理 — 時価が著しく下落したとき
満期保有目的債券は時価評価しないのが原則ですが、これは価値が保たれている限りでの話です。時価が著しく下落し、回復する見込みがあると認められない場合には、時価まで帳簿価額を切り下げ、切り下げ額を当期の損失として処理します。これが減損処理です。
実務上の目安として、時価の下落率が50%程度以上であれば「著しく下落した」に該当し、合理的な反証がない限り減損処理を行うとされています。下落率が30%以上50%未満の場合は、各社が定めた合理的な基準に従って回復可能性を判断します。30%未満であれば通常は著しい下落に当たりません。
| 下落率 | 取扱い |
|---|---|
| 50%程度以上 | 原則として減損処理を行う |
| 30%以上50%未満 | 各社の合理的な基準で回復可能性を判断 |
| 30%未満 | 通常は著しい下落に該当しない |
減損処理を行った後は、切り下げ後の時価が新しい取得原価とみなされ、切り下げた金額を戻し入れることはできません。また、信用リスクの増大によって減損した債券について、その後に償却原価法を適用し直す必要はありません。減損したら、それ以降は償却原価法の計算を続けないという理解でおおむね足ります。細かい判断基準は各社の会計方針や監査上の取扱いによるため、実務では会計士や税理士に確認してください。
外貨建の満期保有目的債券
外貨建、つまり米ドル建などで発行された債券を保有している場合は、償却原価法に為替換算が加わります。処理の順序が決まっており、これを逆にすると答えが合いません。
- まず外貨のまま償却原価法を適用し、外貨建の償却額を求める
- 償却額は原則として期中平均相場で円に換算し、有価証券利息に計上する
- 期末の外貨建償却原価を決算時の為替相場で円換算し、貸借対照表価額とする
- 換算によって生じた差額を為替差損益として当期の損益に計上する
外貨建債券では、円換算後の帳簿価額が為替相場によって上下します。これは償却原価法による評価とは別の原因で生じる変動であり、有価証券利息ではなく為替差損益で処理する点が重要です。外貨建の債券についても、時価が著しく下落した場合の減損の考え方は円建と同様に適用されます。
なお、外貨建取引の会計処理は基準や実務指針の改正が行われることがあります。実際に処理する際は最新の基準と公式の情報を確認してください。
法人税・税務上の扱い — 調整差益と調整差損
会計で償却原価法を適用したとき、その金額が税務でもそのまま認められるかどうかは別の問題です。法人税では、償却原価法に相当する処理が独自のルールとして定められており、名称も会計とは異なります。
償還有価証券という区分
法人税法では、償還期限と償還金額の定めがある有価証券のうち一定のものを償還有価証券と呼び、銘柄ごとに帳簿価額を調整することとしています。会計上の「満期保有目的債券」と完全に同じ範囲ではありませんが、実際に処理する場面は重なります。
この調整によって生じる金額を、増加する場合は調整差益、減少する場合は調整差損といい、法人税法施行令の規定により、その事業年度の益金または損金に算入されます。会計で有価証券利息として計上した償却額が、税務では調整差益として益金に入る、という対応関係になります。
税務では定額法のみ
会計と税務で扱いが分かれる代表的な点が、配分方法です。法人税法上の調整差損益の計算は定額法によることとされており、利息法は認められていません。したがって、会計上で原則法である利息法を採用している会社は、税務上の金額とずれが生じ、申告調整が必要になります。
会計で簡便法の定額法を採用していれば、税務の計算方法と一致するため調整が不要になりやすく、これが実務で定額法が広く使われる理由のひとつでもあります。
| 項目 | 会計 | 法人税 |
|---|---|---|
| 名称 | 償却原価法 | 償還有価証券の帳簿価額調整 |
| 差額の呼び名 | 有価証券利息 | 調整差益・調整差損 |
| 配分方法 | 利息法が原則・定額法は容認 | 定額法のみ |
減損と税務の関係
会計上の減損処理は、税務でそのまま損金として認められるとは限りません。有価証券の評価損が損金算入されるには、法人税法が定める要件を満たす必要があり、要件を満たさない部分は申告調整で加算されます。会計で損失を計上したから税金が減る、と単純には考えられない領域です。
税務の取扱いは法令改正や個別事情によって結論が変わります。ここでの説明は仕組みの概要であり、実際の申告にあたっては国税庁の公式情報を確認し、顧問税理士に相談してください。簿記の試験対策としては、税務の扱いまでは問われないため、会計上の処理を確実にすることを優先して構いません。
まとめ — 償却原価法は「差額を利息として期間配分する」だけ
償却原価法は、額面金額と取得原価の差額を金利の調整とみなし、償還までの期間に配分して帳簿価額を額面金額に近づけていく評価方法です。適用するのは満期保有目的債券で、途中で売らない前提だからこそ時価評価をせず、代わりに利息の期間配分だけを行います。
要点を整理すると次のとおりです。
- 計算式は「(額面金額 − 取得原価)÷ 償還までの期間」の1本。期中取得なら月割で按分する
- 決算の仕訳は「満期保有目的債券 / 有価証券利息」。取得原価が額面より高ければ逆になる
- 2年目以降も同じ仕訳を繰り返し、償還日に帳簿価額が額面金額と一致する
- 原則は利息法、継続適用を条件に定額法が認められる。簿記2級で使うのは定額法
- 時価が著しく下落したら減損、外貨建なら為替差損益が別に発生する
この論点は理屈を理解してしまえば計算自体は単純です。差がつくのは、月割を落とさないこと、クーポン利息を額面金額から計算すること、時価が与えられても評価替えしないことの3点で、いずれも手を動かして仕訳を繰り返せば自然に身に付きます。
学猿の仕訳ドリルは、勘定科目を選んで金額を入力するネット試験と同じ形式で出題し、間違えた問題は忘れかけた頃に自動で復習に回ります。有価証券のように「わかったつもりで本番に落とす」論点ほど、繰り返し解いて定着させる効果が出ます。簿記3級の仕訳から順に積み上げて、2級の有価証券まで一気に得意分野にしてしまいましょう。

